ぶらりらいぶらり:長崎大学図書館ブログ

長崎大学附属図書館からお届けするブログです。 ぶらり、ぶらりと図書館へどうぞ。

【連載第24回】フクロウ館長イチ推しの本

『成りあがり : 矢沢永吉激論集 : how to be big』 

矢沢永吉著 (新装版 角川文庫, 2004.4)

 

夏が終わり、本格的に受験のシーズンがやってきた。

遊びすぎた夏を反省し、中三の秋、僕は教会と近くにあった友達の家に行って勉強していた。だが、1時間勉強したら15分休憩のルールは守られず、大ヒットしていたロック・スター矢沢永吉の「時間よとまれ」をラジカセでリピートし、その年に発売された自伝『成りあがり』を一緒に読んだ。

 

永ちゃん凄かよねー」

「カッコよかー」

 

部活が終わり、伸びてきた髪でリーゼントを真似た。

次は、高校三年生の秋。僕は坂を上り、早朝補習に出て「れ、れ、る、るる、るれ、れよ」と、半分寝ながら古文の助動詞の活用表を唱え、昼休みには「あ、晩だ(abandon)と勉強捨てる」、「一番(1)無残な(637)戦い島原の乱」と、語呂合わせを言いながら友達と弁当を食べた。夕方からは、花園の夢が捨てきれず、砂埃のするグランドでラグビーボールを追った。結果としては、夢は破れ、医学部受験も失敗し浪人した。

 

浪人生の僕は、『成りあがり』の中の永ちゃんの言葉を何度も繰り返していた。広島から上京し、ロック・スターを目指した永ちゃんは、「夢しかなかった」「やる気だけしかなかった」と当時を語っていた。僕は「捲土重来、共通一次まであと100日!」と、秋からスパートをかけた。でも、不合格、二浪目へ突入し宅浪。お金も無くなり、朝から立山の旧県立図書館まで自転車で通い、閉館までひとりで微分積分を勉強した。実は僕はもともと文系だったから、数学がまったくダメ。共通一次でまた失敗。「いい加減にせんば」「文系のもんが医学部に入れるわけなか」の声に負けて、他の学部に入学した。しかし、入学したものの授業料を使い込み中退し、旅に出たり、東京で働いたり…、つまり人に迷惑をかけて言い訳ばかりしていた。

 

23歳の夏、神田の古本屋で文庫本になった『成りあがり』がふと目に入った。ページを開いた。

 

「自分が、まず、やんなよ。色々と、ノーガキたれる前に」

 

永ちゃんの言葉が僕の頬を殴った。目が覚めた。貪るようにページをめくる。 

 

母親に捨てられ、貧乏、病気、裏切り…、何度も何度も挫折を乗り越えて努力してきた矢沢永吉の姿が浮かびあがった。カッコ良さだけではなかった。僕は長崎に戻り、再び必死で勉強し、25歳でやっと医学生になった。

 

あれから四半世紀が過ぎた今年の夏から秋、大学教員として、高校生の進路相談会で長崎、大分、鹿児島、福岡と回った。昔の自分と同様に不安気な多くの高校生から相談を受けた。時には、40年経ても錆びていない本書の言葉を引用して、僕は励ました。

 

「道は、たったひとつではない。自分にあった道を見つけて、そこで成りあがれ。可能性は、山ほどあるはずだ」

 

迷える10代・20代に、再び元気を取り戻したい中高年に、この秋に読んでもらいたい一冊である。

 

(2022年9月25日 長崎新聞 掲載)

 

 

▼所蔵情報

opac.lb.nagasaki-u.ac.jp

 

【黒にゃんこ司書のつぶやき】

こんにゃちは!黒にゃんこ司書です。今回は永ちゃんの著書なので、派手な写真を!と館内を探したのですが、いい被写体が見つからず、昼休みの散歩中にふさわしいものを発見! 文教キャンパス・薬用植物園に咲いていた極楽鳥花です。レジェンド・ミュージシャンYAZAWAに相応しい気品のある花!それじゃまたにゃ~♪