
【前回までのあらすじ】
コロナ、本離れで大学生が来なくなった大学図書館長に任命された「僕」は、フクロウ館長と呼ばれるようになり、司書の杏ちゃん、新人司書のシオリちゃんらと様々な取り組みを始めていた。そして……(フィクションです)
「もう1年が経ちましたね」
司書を束ねる「赤毛の杏ちゃん」こと柴田杏は、エプロン姿でカウンターに立ち、僕に言った。
「フクロウ館長も2年目に突入ですね」
杏ちゃんはカウンターに鎮座する大きなフクロウのマスコットの頭をなでた。バックヤードからやってきた入職2年目の「シオリちゃん」こと本野栞は、
「とっても人気者なんですよ。学生がフクロウ館長マスコットと写真を撮ってインスタに上げてますよ」
とやさしくぬいぐるみの羽根を撫でた。
僕が館長になってから、そして図書館の地下で行った「理想の図書館」を目指すワークショップから1年が経ち、今年の春から司書が自らカウンターに立つようになった。
「やっぱり、ここからの眺めはいいですよ」
杏ちゃんはカウンターの向こうから、図書館の玄関、1階ロビー、グループ学習室を眺めていた。学生アルバイトを10名ほど雇ったが、色々と節約した結果、その分学生の図書予算が増えた。杏ちゃんは声を弾ませている。
「学生アルバイトの募集やシフト作りは大変ですけど、司書のみんながバックヤードから表に出て、明るくなったような気がしますね」
「それはよかった。ホ~ホッホ~。ところで来館者数はどう?」
シオリちゃんが受付のPCからデータをチェックしている。もう彼女は戦力となっている。
「4月・5月は、昨年より50%増の入館者数ですね。」
「凄い!みんなの努力が実ったじゃない」
僕は彼女たちを大袈裟に褒め上げたが、改革改善の先頭に立つ2人は首を横にふる。
「まだまだですよ。コロナ前の来館者数の6割前後ですから、もう少しいろいろと……」
杏ちゃんとシオリちゃんは、顔を見合わせた。
この1年、様々なイベントを行った。まずはコロナ禍で閉鎖していたグループ学習室の利用を再開して、「友達と一緒に勉強する」という当たり前のことを促進した。Webでの就職活動を応援する個室をつくったり、軽食可能なエリアを作ったりと、「賑わい」を演出したりした。僕は言った。
「みんなよく頑張っているよ。でも人は戻ってきたが、学生はなかなか本を読まない?」
「そうですね。貸出数は前年比5%くらいの伸びを維持できる…という感じですね」
とシオリちゃんは眉間に皺を寄せ、分析する。その対策も彼女達はいろいろやっている。学生リクエストによる本の購入や、市内の本屋さんと提携して学生が本屋さんで選書し、その本を購入する「ブックハンティング」。学生サークルによる「学生による学生のための推薦図書コーナー」等々。
「まあ、先は長いからね。ホッホホ~、ぼちぼち」
「そうですね、図書館の改革改善は続きますからね。私はあと1年で退職ですが、あとはシオリちゃんたち若手が頑張れるような環境をこの年で作りますよ」
僕は驚き、杏ちゃんに問うた。
「えっ、辞めるの?」
「はい、来年3月に定年ですから」
定年後の嘱託契約で3年程度は働く人もいるらしいが、彼女はそうしないらしい。せっかく、図書館が動き出したのに、その要の司書一筋38年の杏ちゃんが辞める。
「大丈夫ですよ。『赤毛のアン』だって、アンがいなくなった後も物語は続きましたから」
杏ちゃんはそう言って笑った。
(この物語はフィクションです。つづく)
【フクロウ館長おすすめ本】

赤毛のアンのプリンス・エドワード島紀行 | 長崎大学附属図書館 OPAC
『赤毛のアン』は、カナダ人作家のルーシー・モード・モンゴメリが、自分の生まれ育ったプリンス・エドワード島を舞台にした物語だ。この物語は第1作目の『赤毛のアン』が有名だが、連作シリーズで、村岡花子さん翻訳シリーズでは『アンの青春』、『アンの愛情』、『アンの夢の家』…と10巻続く。とにかく長い長い物語なのだ。
作者のモンゴメリは、島を出て大都会のトロントに住んで牧師の妻となり、アンと同様の激動の人生を送り、トロントで亡くなった。実は、僕はカナダのトロントに2年間住んだことがある。『赤毛のアン』が女の子に今でも絶大な人気があることを知った。僕の娘は現地の幼稚園へ通っていたのだが、アンの絵本を置いていたし、アンに憧れてクラシックな格好をしている女の子もいた。アニメや映画のリバイバル放送や舞台上映されていた。モンゴメリが牧師夫人として住んでいたトロント郊外の教会は観光名所になっていた。
残念ながら、僕はプリンス・エドワード島には行かなかった。トロントからは飛行機で2時間以上かかり、それなりの費用もかかったので断念した。今となっては悔やまれる。しかし、この本を読めば行った気分は味わえる。
作者の松本侑子さんは、『巨食症の明けない夜明け』ですばる文学賞を受賞した作家であるが、「赤毛のアン」シリーズを日本で初めて全文訳し、詳細な注釈をつけた本を出版している(集英社, 1993)。本書はそこから派生した、気軽に読めるプリンス・エドワード島のガイド本である。『赤毛のアン』の舞台となった街や小川や森をめぐり、モンゴメリの生家を訪ねる。写真が満載でイラストの注釈もあり、一気にアンの世界へ入ってゆける楽しい本である。
ファンに嬉しいのは、『赤毛のアン』の本文を抜粋掲載し、その場面の写真とリンクさせていることだ。物語と実際の風景がシンクロしてゆく。プリンス・エドワード島は、島全体が『赤毛のアン』の物語にそった観光地になっているようなので、物語によって島が守られていることを想像させる本だ。本当に行っとけばよかった…と悔やまれる。
さて、僕が描く『フクロウ館長奮闘記』の中の「赤毛の杏ちゃん」には、モデルがいる。ベテラン司書Sさん。彼女もアンの大ファンだそうだ。幼いころ『赤毛のアン』を読み、それがきっかけで小学校から高校まで図書係、大学に行き司書の資格を取って司書となり、先日満期退職となった。「アンの物語は、子供時代、青春時代、結婚…とライフステージごとに深みを感じさせてくれるから、何度でも読める」とSさんは言っていた。僕はSさんから司書の仕事をいろいろ教わって、図書館たるものを学んだ。まあ、いろいろ衝突することもあったが、根本はふたりとも本が好き、学生が好きということでつながっていたような気がする。
Sさんは悠々自適となった今頃、本書を片手にもしかするとプリンス・エドワード島を訪ねているかもしれない。Sさんを38年間の司書生活へと導いてくれた『赤毛のアン』。良い本に出合えれば良い人生となる、モンゴメリはそんなことを思って書いたのだろうか。ホッホホ~、次回をお楽しみに。
【黒にゃんこ司書のつぶやき】
こんにゃちは、黒にゃんこ司書です。繰り返し実写化・映像化されてきた『赤毛のアン』。私は子どもの頃に、高畑勲監督のテレビアニメ版で初めてその世界に触れました。久しぶりに見たいな~と思って調べてみたら、なんと2010年に劇場版に再編集されたものが公開されており、そして今年2025年、その劇場版のリバイバル上映がされるそうです。え~見たすぎる・・・長崎でも見れるといいのですが。それじゃ、またにゃ~♪