ぶらりらいぶらり:長崎大学図書館ブログ

長崎大学附属図書館からお届けするブログです。 ぶらり、ぶらりと図書館へどうぞ。

【連載第55回】崎長ライトのフクロウ館長奮闘記④ ~2004年の傷跡~

前回までのあらすじ】

大学病院の内科医である「僕」は突然図書館長を命じられ、経費削減のためフロント業務の委託契約を見直そうと動く。そこで対峙するのは司書を束ねる「赤毛の杏ちゃん」と呼ばれる柴田杏。(フィクションです)

 

柴田杏は、甲高い声を館長室に響かせました。

 

「館長、図書館にお金がないのはわかっていますよ。私が、いちば~~ん、理解しています」

 

三十余年図書館一筋、仕事ができると評判の彼女は、白エプロンで僕の前で胸を張って直立しています。座るよう勧めますが立ったまま話すので、僕もしょうがなく立ち上がり、彼女を見下ろすことになりました。

 

「館長、あなたは知ってますか?」

 

杏はくるりとした瞳で下から迫ってきます。

 

「司書は以前、20名以上いたんですよ。仲間が20名以上。それなのに、いつのまにか削減されて、今半分くらいになっちゃったの。そして、私たち司書がやっていたフロント業務を業者委託にしろ、と命令されたわけですよ。私たち、泣いたんですよ。仕事を取り上げられて。ほんとに。それを今さら元に戻せって……」

 

杏は微笑んでいますが、たぶん怒っているのでしょう、長い赤みがかった髪の先を両手で握りしめています。

 

「誰が命令したわけ?」

「当時の館長というか、まあ、大学側が」

 

声がさらに高くなってきました。

 

「それはいつ?」

「2004年頃ですね」

「ああ、法人化…」

 

平成14年「競争的環境の中で世界最高水準の大学を育成するため、『国立大学法人』化などの施策を通して大学の構造改革を進める」ことが閣議決定され、平成15年、国立大学法人法案等関係6法案が通り、平成16年(2004)に国立大学は法人化されました。彼女は続けます。

 

「つまり、大学は自らお金を稼ぐことを求められて、私たちは国家公務員じゃなくなったわけです。図書館なんてお金が稼げるわけでもないし、上の言いなりですよ」

 

とあきれたように、杏は赤毛を束ね直しながら言いました。

 

「なるほど」

 

僕もある程度は理解しています。第一次・第二次小泉政権の頃の話です。この頃はいわゆる新自由主義、グローバルリズムの波が始まった頃で、日本はバブルがはじけた後、なかなか這い上がることができずに模索していた時期です。世界で競争できる国立大学へと変えてゆこうと…。

 

この20年間を振り返ると、「国は国立大学へ出す補助金を毎年1%くらいずつ削っていって、20年経った今、日本の大学の教育力も研究力もガタ落ちして、世界との格差はさらに拡がった」と僕は思っています。つまり、大学人にとっていいことはありませんでした。競争、競争と言われて、疲弊してゆく教員、コストカットと言われて削減される人件費、図書館にも大きな傷跡が…。

 

「館長、私は難しいことはわかりませんよ。でもですね、司書の皆、不安なんです。もう10年以上フロント業務をやってませんから、今さら少ない人数でやれませよ」

「わかるよ。でもね・・・」

 

と僕はまた持論を展開します。学生のための図書館を作りたい、そのためには、司書がフロントに立ち、学生と顔を合わせて話をする必要がある。バックヤードにこもりきりじゃダメ。

 

「私たち、こもってるわけじゃありませんよ!」

 

杏の甲高い声が館長室に響きわたると、眼鏡の部長さんが驚いた様子で入ってきました。

 

「まあまあま、館長も杏ちゃんも落ち着いて」

 

部長さんは僕らの話を聞いた後、言いました。

 

「ふたりの話だけでなく、司書みんなの意見を聞きましょうよ。ね、そうしましょう」

 

僕は同意しました。

 

「ただ話し合うんじゃなくて、学生のための図書館を創るために、ワークショップやりましょうよ。ねえ、杏ちゃん」

 

柴田杏は目を丸くして、小さく頷きました。おそらく、僕が「杏ちゃん」と呼んだことに驚いていたんだろうと思います。館長室の窓から青く茂った木々が見え、気持ちよい風が吹いてきました。薫風。もうすぐ5月になろうとしていました。

(この物語はフィクションです。つづく)

 

【フクロウ館長おすすめ本】

推し、燃ゆ | 長崎大学附属図書館 OPAC

 

僕は本書の最初の一行を読んで、「ああ、これは芥川賞取る」と予言したのだが、見事に当たった(ちょっと自慢(笑))

 

 推しが燃えた。ファンを殴ったらしい。まだ詳細は何ひとつわかってない。

 

「推し」という言葉は、本書により市民権を得たように思うし、炎上=「燃えた」、の使い方を純文学でやるわけだし、「殴った」で暴力の要素があり、「らしい」で伝聞形にして、「詳細は~ない」はミステリー要素を含ませ、伝聞形から最終的に自分事に落とし込んでいる。恐ろしい才能。21才最年少で三島由紀夫賞、22歳で芥川賞。天才でしょうね。宇佐美りんは僕の「推し」になりました。ホッホホ~、次回をお楽しみに。

 

【黒にゃんこ司書のつぶやき】
こんにゃちは、黒にゃんこ司書です。館長×杏さんのバトル、いかがだったでしょうか。この頃はちょうどコロナ禍真っ只、その関連業務も増えていた状況で、また上が何かムチャ言い出したぞと戦々恐々・・・いや、これフィクションです! 次回、ついにあのヒトが誕生します。それじゃ、またにゃ~♪