
【前回までのあらすじ】
大学の図書館長を命じられ、改革の任務を背負った「僕」だが、図書館の番人司書「赤毛の杏ちゃん」に「フクロウ館長」と呼ばれ、徐々に森の中に取り込まれてゆく…。(フィクションです)
図書の周りの紫陽花の花が開く頃になると、僕は大学図書館の司書という職業を徐々に理解しはじめていた。杏ちゃんは言う。
「そうなんです、フクロウ館長、司書の仕事は本棚の整理や貸し出しをするフロント業務だけじゃないんですよ」
本を選んで購入する仕事や、本のデータ整理、古書・歴史的に貴重な資料の管理…。
「そして、数億円の費用がかかる電子ジャーナル閲覧関連の契約業務などもあるんですよ。それらをたった10名の司書でやってるんですよ」
と杏ちゃんは白いエプロンの端っこで手を拭きながら、会議室の一番前の席に座った。他の司書も古書の修復作業(前回参照:古書の革から出るレッドロットを専用薬剤で固定する)を終らせて、次々に話し合いのテーブルについた。
話し合いというのは、僕が提案するフロント業務を担う委託業者との契約を切る件についてだ。依然司書たちが反対しているのはわかっていたので、正面からこの件を話しても衝突するだけだろう。僕は言った。
「せっかくみんなが集まってくれたので、今日は『皆さんの理想の図書館』について、考えてみるのはどうかなか?」
エプロンをつけた森の番人達はざわつきはじめた。フクロウ館長を取り込む作戦の計画が外れたのかもしれない。レッドロットと同じ赤茶けた三つ編みの杏ちゃんは言う。
「理想って、どういうことですか?」
「お金がふんだんにあって、司書が何人もいて、何でもできる図書館っていうことさ」
「そんな非現実的なこと話して意味あります?」
「意味はあるさ。だって、みんな図書館の番人の司書だろう。司書が理想の図書館づくりを目指すのは当然じゃないか」
「まあ…、そうですが」
「杏ちゃんは、どうして司書になったの?」
何で今さら…という顔で杏ちゃんは、周囲を見回したが、他の司書も杏ちゃんの話を聞きたがっている雰囲気だ。杏ちゃんは、司書になって30余年の最もベテランであるので、誰もが杏ちゃんを頼りにしている。仕事ができる杏ちゃんが、彼ら彼女らの目標でもある。杏ちゃんは少しはにかみながら、ぶっきらぼうに言った。
「まあ、私のことはどうでもいいですが、「すべての本に、読者を」という気持ちで司書の仕事をしています」
「ホッホ~、なるほどね」
と僕はフクロウのように相槌を打った。杏ちゃんは続ける。
「フクロウ館長はご存じと思いますが、インドの図書館学者で、図書館学の父と呼ばれている『ランガナタンの五原則』というものがあります」
「ホッホ~、僕は知らないなあ~。教えて」
第一原則: 図書は利用するためのものである。
第二原則: いずれの人にも,その人の本を。
第三原則: いずれの本にも,その読者を。
第四原則: 読者の時間を節約せよ。
第五原則: 図書館は成長する有機体である。
なるほど。この原則を基盤に司書は動いているのかもしれない。一番感心するのは、第五原則だ。
「僕らは、止まってはいけない。理想に向かって成長しなければならない…と、いうことだよね?」
杏ちゃんは、白いエプロンの端で訳もなくテーブルを拭きながら言った。
「まあ、そういうことですね」
彼女の微笑みの中に、僕の希望をみつけたような気がした。
(この物語はフィクションです。つづく)
【フクロウ館長おすすめ本】

図書館をテーマにした本は多い。ポプラ社の本で、タイトルからすると物語は予想できる。本屋大賞2位。書店員が好きそうな本である。はい、間違えなくほっこりできる本です。ネタバレするので、これ以上書きません(笑)ホッホホ~、次回をお楽しみに。
【黒にゃんこ司書のつぶやき】
こんにゃちは、黒にゃんこ司書です。今回話題にあがった「ランガナタンの五原則」以外にも、図書館関係者で知らない人はいない言葉に、国立国会図書館に掲げられている「真理がわれらを自由にする」があります。戦争の反省をふまえて制定された国会図書館法前文の一文です。興味がある方は、ぜひこちら↓↓の国会図書館ページをご覧ください。それじゃ、またにゃ~♪