ぶらりらいぶらり:長崎大学図書館ブログ

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【連載第41回】フクロウ館長イチ推しの本

『冬に子供が生まれる』佐藤正午著(小学館, 2024年)

僕は、UFO(未確認飛行物体)を見たことがある。

小学5年生の冬、夕方5時ごろ、運動場でサッカーの練習をしていた。

 

「あれ!」

 

と、友達が北の空を指さした。一斉に見上げる子供たち。円盤状の物体が5~6機、直線状に飛んで行った…という僕の記憶がある。そして、同窓会のたびに、この話になる。

 

「あれって、絶対UFOだったよね」

「うんうん、北から飛んできた」

「いや、南から丸いのが」

「いや、四角の物体だよ」

 

などと、それぞれに記憶は違っており、話すたびに記憶は捏造され、今となっては、本当にUFOを見たのか怪しいし、単なる同窓会のネタとなっている。

 

また、同窓会ではこんなことも起こる。

 

「山口君って、今フィリピンにいるらしいよ」

「うそ、東京じゃないの」

「いやいや、長崎で商売しているよ」…。

 

クラスに何人もいる苗字だと混乱して、どの山口君のことを話しているかわからなくなる。

 

さらに、欠席している場合は、いろんなことを言われる。

 

「浜田君って、水害で流されて…」

 

と、僕は浪人時代「死んだ」ことになっていた(苦笑)。インターネットもSNSもない時代だから、同窓会はある意味、噂や物語が生まれる場所だったのだ。

 

今回の佐藤正午佐世保市在住、直木賞作家)の作品も、そんな同窓生の記憶の曖昧さや噂話から生まれた物語。3人の似たような名前の同級生が、小学生の時にUFOを見た体験が核になって物語が展開される。時間が経つにつれ、同級生やその友達、先生の記憶が交錯し複雑化する。たびたび同窓会の場面もあり、読者は「あるある」とうなずきながら、日常から不思議な世界へ引き込まれてゆく。

 

直木賞受賞から7年ぶりの長編となる本書について、彼はあるインタビューでこう述べている。

 

「人は感情を解放して泣いたり笑ったりしないと生きていけない。だから、どうしても感情をコントロールできなくなるような出来事を書きたかった」

 

なるほど。大人は、子供の頃のように無邪気に泣いたり笑ったり、青春時代のように純粋に人を好きになったり嫌いになったりすることは難しくなる。むきだしの感情を取り戻したいがために、人は同窓会に行きたくなるのだろう。

 

さらに、佐藤は、こうも言う。

 

「誰にでも書けるストーリーを誰にでも書けるようには書きたくない。読むのに忍耐力が必要かもしれないけれど、こういう小説を書く今の佐藤正午のままでいいと思う」

 

同意!と、佐藤ファンの僕は深くうなずくが、新刊が出るまで7年は長すぎる。せめて、4年に1回くらいは…と、願っている。

 

先日、久しぶりに同窓会の案内状が届いた。出席すればUFOの話をし、欠席すれば今度も抹殺されるかもしれない(笑)。さて、さて、どうするか…ホッホホ~~次回をお楽しみに。

 

(※以上は2024年3月24日掲載の長崎新聞記事「この本読んでみた!」を再編集したものです)

 

PS:

佐藤正午は、筆一本で生きてきた。それだけ本が売れて稼いで食べてきたということなのだろう。ある芥川賞女性作家が、日本には純粋に書くことだけで食べていける純文学系作家は両手の指くらいだろう…といっていたが、それが本当なら、佐藤正午はその中に入っているのだろう。

 

彼は、テレビに出て新刊を宣伝したり、YouTubeSNSで情報を発信することはない。たまにインタビュー記事は見かけるが、ほとんどマスメディアに出ない。自分自身も、筆一本で生きてきた、と述べている。カッコいいし、凄いと思う。

 

土曜日のTBSテレビ「王様のブランチ」は毎週観ている。作家が出て、インタビューされたりして、新刊本を宣伝するのだが…、ちょっと寂しい気もする。本が売れない時代だから、それも必要なのだろう。出版元の要請もあるのだろうし、出たがりの作家も増えたのかもしれない。SNSを頻繁に更新する作家もいる。もちろん、それで本が売れたら、それはそれでいいと思う。

 

でも、僕はなんとなく、作家のことを知って本を読もうと思ったりしないし、本を読んで、その作家のことを知りたいとは思わない。書き終わった作品は、作家の手元から旅立ち、読み手のものとなる。読み手が手に取るのは偶然だし、読んでしまえば、それぞれのイメージを持つ。それが、本なのだ。と言っても、やっぱり売れないとね……(苦笑)…ホッホホ~次回をお楽しみに。

 

▼所蔵情報

opac.lb.nagasaki-u.ac.jp

 

これまでの書評はこちらからも読むことができます。

booklog.jp

 

【黒にゃんこ司書のつぶやき】

こんにゃちは。黒にゃんこ司書です。「本が売れない」、「若者の読書離れ」という言葉、私が若者の頃から聞くので、かれこれウン十年以上若者は本から遠ざかり続けていることになります。これだけの月日離れ続ければ、もう接点はないのでは・・・となりそうですが、そんなの人に拠るわけで、それを実感したのが先日のベストリーダーの2名の学生と永安学長との対談でした。本を読むことも、小説を書くことも、何事もモチベーションを保ち続ける人は強い! それじゃまたにゃ~♪