『新型コロナワクチン 本当の「真実」』
宮坂昌之著 (講談社, 2021.8)
大規模ワクチン接種会場のブースの中に、その男の人は入ってきた。医師の僕は、「体調はいかがですか?」等の型通りの質問を終わらせて、問診表にチェックし、「注射を打つブースへどうぞ」と言うと、その人は立ち上がりながら言った。「あれ、してもいい?」
2021年初夏から秋にかけて、第1回目と第2回目の新型コロナウイルスに対するワクチン接種業務を何度か手伝わせてもらった。いくつかの会場に行った。県主催の県庁、市主催の商業ビル、民間主催の工場跡地の特設会場。1日に、600~1000人の人が来る会場なのだが、それぞれ主催者の考えが反映されていて、スタッフの数や動線などがまったく異なる。
県庁では、ワクチンを接種するまでいくつかの関門がある。
まず、入ってくると特設待合がある。パイプ椅子がならび、予約時間の30分前くらいにそこに並ぶ。時間が来ると検温をして一列になり会場に入り、それから数列に分かれて問診表等のチェックがあり、それが終わるとさらに第2回目の事務チェックがある。チェックが終わると中待合。そこで問診表を渡し、名前が呼ばれるのを待つ。やっと呼ばれると僕が待つブースへ入る。それが終わり、誘導されて注射ブース。終わると、さらに事務チェック。
何度も座ったり立ったり、カーテンを開け閉めして、そしてやっと15分待機場へ。
数えきれない「誘導」「受付」「医師」「看護師」「待機」などのカラフルなビブス(ベスト状のビニール製)をつけた人たちが、うようよと動いている。接種する人が少ない時などは、スタッフの方が多かったりする。高齢の方も多いので、ゆっくりと、安全・安心・確実・廃棄ゼロをモットーに、いかにも良い意味で日本のお役所らしい仕事ぶりである。
逆に、民間の会場は超効率的だ。工場跡地に設けられたプレハブの仮設施設に入り、受付の器械にスマホをかざす。バーコードが読み取られ、ビ~~と個人情報が印刷された問診票が出てくる。それを2名のスタッフが簡単にチェックし、医師のもとへ。ブース等ない。立ったまま二列に並び、二名の医師がどんどんチェックしてゆく。チェックされると、カーテンなどのないブースで、三名の看護師がどんどん注射を打ってゆく。そして、バスの中で15分待機する。自分で時間を測り、帰りに事務チェックを受ける。スピード感は半端ない。もちろん、ここは職域接種で、健康な会社員の方が主であるので、公立の3倍くらいのスピード感がある。
接種者の方からいろんな質問も受ける。中には、答えに困る質問もある。
「あれ、行ってもいいですか?」「???」
「サウナ」「今日?」
「はい、今から」「う~ん、シャワーじゃダメですか」
「いや、今日はサウナの日なので」
「あれ、してもいい?」「???」
「筋トレ」「どんな筋トレ?」
「バーベル。日々の精進が大事ですので」「今日は、腹筋くらいで勘弁してもらえませんか」「う…ん…」
「あれ、してもいい?」「???」
「何ですか、あれって?」「………」
真っ黒に日焼けしたガタイの良い若い男の、探るような視線が、僕を突き刺した。一瞬の間をおき、黙ってブースを出て行った。はにかむような顔を思い出し、あとで気づいたが、遅かった。きっと、こんなことを聞きたかったんだろう。
https://www.askdoctors.jp/topics/3401829
さて、本書は、免疫学者の書いた一般人の方へ向けたワクチンの様々な情報が掲載されている。Q&A形式で書かれているので、自分の疑問に思うところから読んでゆける。
若干難しい箇所もあるが、僕が一番面白と思ったのは、「コロナ・コメンテーターの真贋」「嫌ワクチン本を検証」。テレビによく出る怪しいコメンテーター医師やワクチン反対派の医師を実名で、バサリバサリと切っている。科学的根拠を持っている筆者だから自信をもってそう書けるのであろう。
2022年2月、第3回目のワクチン接種業務がはじまった。
また、研修医の先生らと接種会場へ行く。今度は、どんな質問が待ち受けているか…。狭いブースの中で、ほんの数分出会う一期一会。大事にしたいと思いながらも、今回でこの仕事が最後になるように願うばかりである。
ホーホーホー♪次回をお楽しみに♪
フクロウ館長より
▼所蔵情報
【黒にゃんこ司書のつぶやき】
こんにゃちは!黒猫司書です。この連載も12回目となり、この度中央図書館2Fにフクロウ館長コーナーができました! ここで紹介した本がすべて並んでいますので、ぜひ読んでみてください。また、これまで取り上げた本を一覧できるWeb本棚をつくりました。
フクロウ館長イチ推しの本 (ブクログ:長崎大学附属図書館の本棚)
書評もそれぞれ読めるようになってますので、こちらもぜひのぞいてみてください。それじゃまたにゃ~♪