
【前回までのあらすじ】
コロナ禍に大学図書館長となった「僕」。「フクロウ館長」と呼ばれ、ベテラン司書の杏ちゃん、新人のシオリちゃんらと様々な取り組みをして、3年が経った。徐々に来館者数は戻り、平常運転に戻りつつあったのだが……。(フィクションです)
2024年6月のことである。
「1ドル160円突破しましたよ!」
シオリちゃんが朝の朝礼で、甲高い声で叫ぶように言った。「シオリちゃん」こと本野栞は、司書として入職して3年が経ち、ちょうど同じ時に僕も図書館に来たのだ。歌が好きで、いつも鼻歌を歌いながら仕事をしている。イラストも上手で、マスコットの「フクロウ館長」のデザインを考えて、フクロウ館長のクリアファイルや団扇なんかも作ってくれて、新入生に配る企画を立ててくれた。来館者が倍増したという功労者でもあるのだが、本業は「文献係」である。
「文献係って何?」
と僕は昨年退職したベテランの杏ちゃんに聞いたことがある。僕の予想としては、学生や教員から頼まれた論文を探して渡す係だと思っていた。
「確かに、昔はそんなこともしていました」
と杏ちゃん。しかし、今はネットの時代だ。論文はネットからダウンロードする。それも、ほとんど有料版が多い。
「紙の時代は、外国の雑誌を買って、それを図書館に置いて、学生や先生方がコピーを取って読むというのが主流でしたね」
確かに、僕も研修医の頃はそうした。
「でも、今は出版社ごとに契約をするんですよ。1冊1冊の雑誌じゃなくて、だいたいパックの契約が多いから、まとめて100雑誌とか…そんな感じです。大事なのは、全部ドルやユーロで払うから、為替が重要なんですよ」
杏ちゃんによれば、文献係は雑誌の選定(どの雑誌を購入するかという学内の委員会を開く)、出版社との交渉(もちろん英語)、財務との予算の折衝(これが一番難しい)、さらに為替をみながらいつ契約するかという潮目を読む作業などがあり、非常に重要なポジションらしい。退職前の杏ちゃんが
「重要だから、シオリちゃんにやってもらいます」
「え~、私なんかができますか?」
「大丈夫。あなたならできる。将来はあなたがここを守るのよ」
とのやりとりがあったようだ。杏ちゃんは去り、指名されたシオリちゃんは周りのサポートを受けながら「文献係」を頑張っている。
「フクロウ館長、10円くらい円安になれば、数十万~百万円くらい値が上がりますから、死活問題ですよ。なんとか円安を止めてください!」
「ホ~ホッホ~、じゃあ、今度日銀総裁に電話しておくよ」
と軽口をたたいても詮無いことである。最近は少し円高になってきたものの、僕は朝礼でぼやく。
「ぶっちゃけ、図書館予算の3分の2がこの外国雑誌購入で消えてます。地方大学でこうだから、中央の帝大系の予算はその数倍だろう。日本全国なら300億はくだらない。最先端の学術的な知識を得るのに、そんなにお金をかける必要があるんだろうか。だって、その雑誌に投稿しているのは全国、全世界の研究者なんだから。投稿して雑誌に載せると決まると、掲載料が発生する。1つの論文を掲載するのに、通常20~30万はかかる。1本100万円の掲載料を要求する出版社もある。掲載するのにお金を取り、それを閲覧するのにもお金とる!」
僕はだんだんと熱を帯びてきて、朝礼の時間が過ぎてゆくと部長さんが中に入った。
「フクロウ館長、まあまあ、今日はそのあたりで。シオリちゃんも頑張ってますから…」
「まあ、そうですね、ホッホホ~。ここで吠えてもしょうがないですね。失礼」
【論文等のオープンアクセスについて】
フクロウ館長だけでなく、全国の大学図書館長が怒っているこの問題は、2023年の広島G7でも取り上げられて、世界的な問題となっている。2023年5月25日内閣府科学技術・イノベーション推進事務局の資料に詳細が記載されている。背景には、①少数の世界的な学術出版社による研究成果の市場支配が進みつつあり、購読料や掲載公開料(APC)の高騰が進んでいる。②このため、⼤学、研究者等の財政負担が増⼤するとともに、研究コミュニティの自律性を損なう懸念がある。③地政学的な情勢変化に対応し、オープン・アンド・クローズ戦略の下、価値観を共有する国・国際機関等と連携・協同の必要性がある。
具体的には、上位3社で日本の海外ジャーナル購読料の50%を占めている。購読料(8年で1.6倍)は、掲載公開料(8年で5.6倍)の高騰が続いている。

このような背景をふまえて、G7は宣言した。FAIR原則(Findable(見つけられる)、Accessible(アクセスできる)、Interoperable(相互運用できる)、Reusable(再利用できる)に沿って、科学的知識並びに研究データ及び学術出版物を含む公的資金による研究成果の公平な普及による、オープン・サイエンスを推進する。
「つまり、どういうこと?」
とシオリちゃんが聞くので、フクロウ館長が強いて使いたくない言葉を使い解説すると、
「ぼったくりの出版社に対して、先進国のお偉いさん達が、『おまえら、いい加減にせい! 最先端の知識は人類みんなのものだ! それで大儲けを続けるなら、こっちはG7の仲間で研究データや最新の知識をシェアするシステムを作るぞ。おまえらの自由にはさせん!』と怒っている状態、てこと。」
シオリちゃんは「すご~い」と小さく拍手した。しかしながら、問題はそんなに簡単に解決することはない。著作権や契約の問題もあり、オープンアクセスが実現するにはかなりの時間がかかるであろう。大学側は単独ではどうしようもないので、日本の大学全体で外国の出版社と交渉するようなシステムを作ろうとしている。
図書館の問題は、他にもいろいろある。全国的な来館者数の減少、図書館運営費の高騰、増え続ける本を置くスペースの問題、専門的な人材育成の問題…。
「まあ、どこの業界や組織でも同じようなものでしょうけど。お金がね~」
と部長さんはため息をつきながら、帳簿をみている。
「オ~ホッホ~。部長さん、お金はなんとかなりますよ」
「いえ、どうにもなりません!」
「まあ、そうですが、杏ちゃんが育ててくれたシオリちゃんのような若い人が頑張っていますし、本好き、図書館好きの人たちが集って働いている図書館の未来は、きっと明るい」
紀元前の昔から、図書館は存在している。だから、これからも変化しながら図書館は進化するに違いない。そして、フクロウ館長とその仲間たちは、学生のための図書館づくりに、日々奮闘し、進化し続けるでしょう、ホ~ホッホ~、じゃあ、これでおしまい! 読んでくれてありがとう!
(この物語はフィクションです。完)
【フクロウ館長おすすめ本】

物語を作る魔法のルール : 「私」を物語化して小説を書く方法 | 長崎大学附属図書館 OPAC
どんな本でも映画でもドラマでも、ある一定のパターン(ルール)があることは誰もが知っている。本書はそれを詳細に分析している。例えば、僕が書いたこの「フクロウ館長奮闘記」ではどうだろうか?
【パターン1】主人公は外から来る、あるいは外圧により特殊な状態となる。
⇒この奮闘記でも、「僕」は病院という外から図書館に来た。「僕」は学長により「危機的な図書館を立て直す」という特殊な状態へ追い込まれる。
【パターン2】敵が現れる。あるいは争いとなる。
⇒「僕」と「杏ちゃん」が対立する。
【パターン3】ある事件(人)がきっかけで、和解する
⇒「シオリちゃん」が登場し、和解のきっかけを作る。
【パターン4】変化し、発展する
⇒図書館が学生のための図書館へ生まれ変わり発展する。
この4段階のパターンは僕自身が考えたことなので、本書にこう書いてあるわけではない。本書にはもっと詳しくいろいろ書いてある。
いずれにしろ僕が考えた物語は、まあこんな感じだ。作り手はそのパターンを意識しながらもできるだけ外れて、意外性のある物語にしたい。でも結局は、そのパターンからは抜け出すことはできないのだが…。
人生も物語。作り手はあなた。しかし、我々はどうしても過去のパターンに影響されて、誰かのように生きてゆく。まあ、それはそれでいいのだが、やっぱり少しはオリジナリティが欲しいと思う。
さて、次の人生の章はどう書こうか…、それはやっぱり、あなた次第。
読んでくれて、ありがとう! ホッホホ~。
これからも、一緒に頑張ろう! ホッホホ~。
【黒にゃんこ司書のつぶやき】
こんにゃちは、黒にゃんこ司書です。半年に渡った当連載「フクロウ館長奮闘記」もとうとう最終回を迎えました。玄関でお迎えしたり、おすすめの本を紹介したり、今日も図書館のあちこちでフクロウ館長はあなたを見守っています。学びの場として、ほっと一息つける場所として、図書館は学生のみなさんをお待ちしています! それじゃ、またにゃ~♪