ぶらりらいぶらり:長崎大学図書館ブログ

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アダム・スミス展 記念講演会

現在長崎学資料展示室で行われているアダム・スミス展―生誕300年記念展示―」に関連して、6月23日(金)に『アダム・スミスと日本の経済学』と題した記念講演会が行われました。
学外の方に加え経済学部生も多数出席し、会場の経済学部本館12番教室は賑わいをみせました。

講演者は、経済学部准教授、経済学部分館長の南森茂太先生です。
今回のアダム・スミス展の見どころや、その著作を含めた(当時の)新しい西洋の学問がどのように日本に伝わったのかなどのお話でした。
以下、先生のお話を少しご紹介します。


展示ではアダム・スミスの著作『国富論』『道徳感情論』などの出版年や出版地が異なる複数の版(異本)、また、それらの翻訳版が集められています。『国富論』だけでも、初版から9版までの原著、日・仏・英・中国語版など16冊を数えます。
これらは全て長崎大学経済学部の前身である長崎高等商業学校や、当時の教授武藤長蔵先生によって買い集められたものなのですが(現在は「武藤文庫」として当館蔵)、なぜ、同じ本なのにこれほどたくさんの版を集めたのでしょう?
それは、異本を読み比べることで、アダム・スミスの思想が年を経てどのように変遷していったか、またどのように普及していったかを知ることができるからだそうです。財を惜しまず買い集められた先人の研究への情熱を伺い知ることができます。

ずらりと並んだ『国富論

実は長崎で「アダム・スミス展」が行われるのは、今回が初めてではないそうです。「生誕200年」だった100年前の1923(大正12)年に、東京帝国大学慶応義塾大学、京都帝国大学と並んで、長崎高等商業学校でも展示会と記念講演会が行われました。
講演会は「一個の空席も見当たらず、…更に数脚を搬入せしむる」ほどの大盛会だったとの記録が残っているそうです。
そのとき配付された武藤長蔵先生による解説付きの絵葉書5枚セットも今回展示しています。

生誕200年記念講演会配付の絵葉書
本の挿絵や、武藤先生が重要な発見をしたページなどを複製している


さて、ここでひとつ、南森先生からの問題です。「アダム・スミスは何学の学者でしょう?」
「(南森先生風に)え?経済学者でしょ?なにいうてますのん?」と思いますよね。
アダム・スミスが英国グラスゴー大学で教鞭をとった科目は「論理学」や「道徳哲学」であり、『国富論』を出版するよりも15年も早く『道徳感情論』を出版しています。実は哲学者だったようです。
アダム・スミスの研究は人間を社会的存在として捉え、どのような存在かを明らかにしたいというものだったそうです。人間の感情や行動が集団や社会の中でどのように働いていくかを研究した結果が『国富論』(原題:An Inquiry into the Nature and Causes of the Wealth of Nations『諸国民の富の本質と原因に関する研究』)としてまとめられ、のちにその考えが『経済学』という学問に発展していったということを知ることができました。

柔らかな口調で話される南森先生のお話はとても楽しくて、この他にも、先生のご専門の神田孝平ら、幕末・明治期の日本の経済学の先駆けとなった人々のエピソードなども聞くことができ、あっという間の90分でした。

 

アダム・スミス展」は7月31日(月)まで、長崎学資料展示室でご覧いただけます。

 

展示室前には「来場者クイズ」もあります。全問正解の方には職員手づくりの景品を差し上げます。
展示をよ~く見ていただくと答えが見つかりますよ。
ご来場とクイズへのご参加、お待ちしています。

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