ぶらりらいぶらり:長崎大学図書館ブログ

長崎大学附属図書館からお届けするブログです。 ぶらり、ぶらりと図書館へどうぞ。

古い書物から浮かび上がるもの

みなさんは、経済学部分館の「武藤文庫」はご存じですか?
「長崎学資料展示室」を見学したことのある人もいらっしゃるかもしれません。
実は、展示室にある資料は、「武藤文庫」の極々一部なのです!

「貴重書収蔵庫」という別の部屋には、「武藤文庫」の図書や雑誌などが約10,000冊、
他に地図や書画等の資料が約200点もあり、その中には多くの稀覯書(とても珍しい本)が含まれています。

最近、この「貴重書収蔵庫」内にある一部の棚について、資料の並べ直しをしています。
中には、状態が悪く、破けていたり、虫食いがひどかったりして、慎重に扱わなければならないものもあります。

古そうだけど、いつ頃の本かな?と思い、そろーっと、開いてみると・・・
天保〇年、嘉永〇年、安政〇年・・・、江戸時代!
なんと、200年近く前の本もあるのです。

調べてみるとおもしろそうなものがたくさんあるのですが、
今回、ご紹介したい本はこちら。
「西洋事情 次編」

虫食いで分かりづらいですが、右側に「福澤諭吉著」また「慶應四年」(1868年)と書いてあります。

福沢諭吉が幕末から明治にかけて著した「西洋事情」は、当時の欧米の状況を紹介したもので、初編3冊、外編3冊、二編4冊の10冊からなる書物です。

写真にある経済分館所蔵の「西洋事情」をよく見ると、「次編」とあります。
次編とはなんだろう?と思い、調べてみると・・・。

なんと、これは偽物だそうです。
(詳しくお知りになりたい方は、慶應義塾大学メディアセンターデジタルコレクションにて「西洋事情 初編一」の説明をご覧ください。)https://dcollections.lib.keio.ac.jp/ja/fukuzawa/a02/3

 

この「西洋事情 次編」は、福沢諭吉著「西洋旅案内」の本文をそっくりそのまま翻刻し、単に題名だけを「西洋事情 次編」と名付けたとのことです。

どうしてそんなことが起きたのかというと、当時、本物の「西洋事情」は大変な人気本、ベストセラーだったそうで、人気ゆえに、偽版がたくさん作られたそうです。「西洋旅案内」も人気本でした。

こうした事情から、江戸時代の終わり頃、一般の人々もアメリカやヨーロッパに大きな関心や憧れを持っていたことがわかります。諸外国の文化を知り、時代の変化を前向きに乗り越えようとする人々の様子を感じることができます。

さらに、大きなブームに乗っかり、海賊版でひと儲けしようという人たちもいたんですね。
福沢諭吉は、海賊版の横行に対して、偽版の出版差し止めと版木の没収を訴えたそうです。この時代に、すでに著作権の概念を持っていたあたりはさすがです。

今回、ご紹介したような特殊な書物を通して、現物で残していくことの価値を改めて感じました。

「武藤文庫」には、まだまだ興味深い資料がたくさんあります。
古い書物から浮かび上がる時代背景を読み取って、歴史を学ぶのもおもしろいかもしれませんね。

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