ぶらりらいぶらり:長崎大学図書館ブログ

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【連載第20回】フクロウ館長イチ推しの本

『ふたりはともだち』

アーノルド・ローベル著, 三木卓訳 (文化出版局, 1972.11)

僕は13歳の時、小さな島から長崎港の見える坂の上の一軒家に引っ越した。路地を挟んだ隣の家に、同じ年の男の子がいた。

 

僕達は朝から待ち合わせて登校し、放課後も一緒にサッカーをし、夕暮れの細い坂道を一緒にだらだらと登り帰った。坂の途中、教会の脇の階段に座り込み話し込むこともあった。優しく慎重な彼が聞く。

 

「県大会に行けるかなあ~」

「行こうで。行けるさ!」

 

生意気な転校生が答える。

造船所のクレーンの影と海を挟んだ対岸の斜面に光る無数の灯が美しかった。

 

一年後、目標であった県大会に出場したが、ふたりは別々の道を歩んだ。彼は高校卒業後地元で社会人、僕は県外で大学生。僕の家も再び引っ越して距離的に離れたが、二人はゆるくつながっていた。

 

時は流れ、互いに結婚し、子供ができて、一緒に遊園地に行ったこともあった。彼が出場する社会人サッカーの試合を観に行ったこともあった。彼のお嬢さんが看護学生となり大学病院で挨拶したこともあった。銅座でばったり会って、カラオケバーに行ったりもした。

 

振り返ってみると人生の岐路で僕と彼はなんとなく会い、いろんなことを淡々と話したように思える。僕たちの関係は、一言で言えば「ふたりはともだち」。

 

先日、長崎県美術館で開催されている「アーノルド・ローベル展」へ行ってきた。おそらく誰もが子供の時に一度は手にした絵本『ふたりはともだち』や『ふたりはきょうも』の作者である。カエルのキャラクターを見れば、「あ~」とうなずくであろう。展覧会は、盛況であった。子供連れや女性が多かったが、僕らのようなおじさん年代もみかけた。

 

本書は、内気で心配性の「がまくん」と、お人好しで行動派の「かえるくん」の日常を通して育まれる友情の物語である。おそらく作者の中に、「がまんくん」と「かえるくん」の正反対の二人が存在していたのだろう。誰しもが、自己の中に、陽と陰、光と影を抱えて生きていく。友達とは、ある意味、自分の写し鏡であり、分身のような存在なのかもしれない。

 

僕は昨年膝を壊し入院した。コロナ禍であったので、元隣人の彼はスマホのメッセージや電話で見舞ってくれた。有難かった。

 

今年は、彼が入院した。ある日の夕方見舞いに行った。僕と友達は病院の広い窓に椅子を並べて、ゆっくりとオレンジ色になってゆく風景を眺めていた。13歳のあの日のように、取り留めもない話をつづけた。サッカーや子供達や仕事の話。やがて日が暮れて坂の街に電灯が灯るころ、「来てくれて、助かった」と、友達は手を振った。僕は自分の無力さを感じながらもエレベーターに乗った。

 

ふと、アーノルドの作品を思い出した。「君がいてくれてうれしいよ」と、互いの違いを認め合い支えあった「がまくん」と「かえるくん」、最後は「alone together (ふたりきり)」という言葉で締められた友情物語。ぜひこの夏、大人にも読んでもらいたい絵本だ。

 

 

▼所蔵情報

opac.lb.nagasaki-u.ac.jp

【黒にゃんこ司書のつぶやき】

こんにゃちは!黒にゃんこ司書です。絵本は長く読み継がれてた名作がたくさんありますよね。本書もその一つで、日本語訳版の初版は1972年で、当館所蔵分はなんと195刷!(2021年7月発行)。県美術館の「アーノルド・ローベル展」は8月21日(日)まで。本書を読んでから、足を運んでみてはいかがでしょう。それじゃまたにゃ~♪

 

www.nagasaki-museum.jp