ぶらりらいぶらり:長崎大学図書館ブログ

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【連載第19回】フクロウ館長イチ推しの本

『自転しながら公転する』

山本文緒著 (新潮社, 2020.9)

僕には、絶対に読まない本がある。お姫様、王子様、巫女、天使、悪魔…などが出てくる本。お転婆でドジな女の子が主人公で、いろいろドタバタして、いじわるなライバルが現れて、親切な友達が助けて、泣いて笑って、最後はだいたいがどんでん返しのハッピーエンド。読まないというか、読めない(笑)。

 

そう、例えば、「りぼん」「別冊マーガレット「コーラス」等の少女漫画雑誌がそれにあたる。「魔法使いサリー」とか「ちびまる子ちゃん」とか「HIGH SCORE」等のアニメ化された超有名作品は知っているが、手に取って読んだことはない。ティーンエイジの少女たちの淡い恋愛もののコバルト文庫シリーズも同様に読めない。同級生の女の子達が、昼休みに本の貸し借りをしているのを見たことはあるが、読もうと思わなかった。

 

僕らの育った時代は、「少年」と「少女」に明確な線引きがあり、線を超えることはなかった。今はボーダレス時代で、性があいまいになって、男の子、女の子とかの性で区別するは良くないと言われている。しかし、文学や漫画は好みの問題だから、緩やかな線引きは続いてゆくんじゃないかと思う。

 

僕は、女性作家にしか書けない、女性にしか読めない分野はあるんじゃなかろうかと思ったりする。前述したコバルト文庫シリーズがそれだ。このシリーズには、赤川次郎夢枕獏などの有名男性作家もいるにはいるが、やはり女性作家が多く、圧倒的に女性読者が多い。唯川恵角田光代もコバルト出身で、後に直木賞を取り、国民的作家となって活躍している。今日紹介する本の作者の山本文緒も、コバルト出身だ。彼女は、1983年から公募が始まったコバルト・ノベル大賞を受賞した。その後、直木賞を受賞し、過去形となるが、活躍していた。

 

本書『自転しながら公転する』は、30代女性が主人公。

お姫様、王子様、天使、悪魔は出てこない、超現実のつまらないフツーの日々が延々と続く物語である。もちろん直木賞作家であるので、現実的なあるあるの出来事を上手に混ぜて、読ませてゆく。恋愛や結婚の話がなかなか進まず、せっかちな僕は <わかった、わかった、だから、結論は何? 結婚するのしないの、どっち!> などと突っ込むのだが、話すだけ話し、説明するだけ説明する展開が続く。現実なのだが、少女漫画的な説明と納得がそこにあるような気がする(批判しているわけではない)。

 

478ぺージと長い本。ぐるぐると自転しながら、ぐるぐると物語が続く。話は、男女の問題だけではない。非正規、正規社員問題、更年期問題、介護問題、日本の経済の問題…とてんこ盛りに入ってきて、<そうそう、そうよね~>と女性の方々のつぶやきが聞こえてきそうな文章である。

 

実際に、本書は女性からの圧倒的な支持があった。

本書が出版された直後、作者はNHKあさイチ」(2020年12月18日)に出た。その回は大反響で、視聴率も良かったようだ。その頃、僕は「あさイチ」を録画して夕食時に観ていたので、作者の山本文緒さんをはじめて知った。直木賞を取って、プレッシャーとなりうつ病となって、数年の闘病生活の後に、本書を書き上げたことを淡々と話していた。好感が持てた。僕らと同年代。いつのまにか僕は、<そうそう、そうよね~>うなずいていた。

 

山本さん、すごいなあ~、これからいい作品を書き続けてくれるんだろうなあ~。

「あたたかなエールが届く共感度100%小説!」

と、本書の帯にあるように、そんな小説を書いてくれんだろうなあ~。

ホッホホ~~。そう、思っていた。

 

しかし、1年もたたないうちに、山本文緒の突然すぎる訃報をニュースで知った。膵臓がんだったようだ。もちろん知り合いでもなく、ファンでもなく、たった一作読んだ読者であるが、ショックだった。いまさらではあるが、ご冥福をお祈り申し上げます。合掌。

 

 

▼所蔵情報

opac.lb.nagasaki-u.ac.jp

 

【黒にゃんこ司書のつぶやき】

こんにゃちは!黒にゃんこ司書です。フクロウ館長は少女小説が読めないとのことですが、私も少年漫画の敵を変えて延々戦い続けるものや、最近流行りの異世界転生ものが苦手で、世界観の理解が追いつきません。読む年齢やタイミングによって、作品への解像度が全然違うような気がします。その考え方で言うと、昔読んだ本も今読むと、また違った印象になるはず。それじゃまたにゃ~♪