ぶらりらいぶらり:長崎大学図書館ブログ

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【連載第17回】フクロウ館長イチ推しの本

『空気を読む脳』中野信子著(講談社, 2020.2)

日本人は他人に厳しい民族。それは、脳内のセロトニントランスポーターというたんぱく質の密度が低いからだそうだ。「社会性のルールに従わないものには、ペナルティーを負うべきだ」と思い、制裁を与える。だから、不倫や失言に対するパッシングが止まない。

 

その理由は、脳がそうなっているらしい。

 

<第1章 犯人は脳の中にいる ~空気が人生に与える影響とは?~>

<日本人はなぜ「醜く勝つ」より「美しく負ける」を好むのか?>

 

これは面白かった。サッカー好きなら有名な話がある。サッカーワールドカップ・ロシア大会の日本対ポーランド戦。経緯は複雑なので単純に解説すると、日本チームはポーランドに上手に(ある意味故意に)負けて、決勝トーナメントへ進出した。それに対して、ものすごいパッシングがあった。意見も真っ二つに割れた。当時の西野監督を批判する人と擁護する人。僕の飲み友達の間でも、激論が交わされた。本書によると、セロトニン何とかが少ない人はパッシングして、そうでない人は擁護するということになる。まあ、真偽のほどはわからないが、なぜ論争するかの原因がわかれば腑に落ちる。

 

僕は脳科学のことは、大昔、医学部の生理学や生化学や薬理学で習った気がするが、ほとんどわからない。しかし、作者の中野信子さんの説得力のある書き方がいい。テレビでもお見掛けする美しい科学者であるが、淡々と話す方である。文章もそんな感じだ。あまり盛り上げないところがかえって説得力はある。

 

ひとつだけ、おっ、と思ったところは131ページ。子供を褒めて育てた方がいいか、叱って育てた方がいいかという永遠の議論がある。最近は褒めて育てた方がいいという風潮であるが、それに一石を投じるメッセージが示されていた。

 

本書で示されたデータは、子供に対して「頭がいいと褒める①」「努力したと褒める②」「何も言わない③」の3つにグループに分けると、その後、難しい課題を選ばなかった子の割合は65%、10%、45%。つまり、褒めて育てると困難に立ち向かわない人になる。その証拠に、①のグループは、他のグループよりも成績が下がってゆく。要するに、「頭がいいと褒める」と子供はその評価を守りたいがために容易なことばかりを行い、結果伸びない、ということのようだ。かなり省略して書いているので、詳細は本書を読んで欲しい。とにかく、褒め方には注意が必要だ。安易に褒めることはその人のためにならないようだ。

 

もうひとつ、これはホント??と思ったこと。

191ページ。長寿には共通する「性格」が見つかった。良心的で、慎重で、注意深く、調子に乗らない。いわば、まじめで悲観的な性格を持っていることが長寿との相関が高い、と本書では言っている。僕は一内科医としては、これは逆だと思う。僕が今まで見てきた患者さんで、100才前後の元気な人は、明るく楽観的な人が圧倒的に多い。百歩譲って、もともと悲観的な人が長寿の結果楽観的になったのかもしれないが、それこそセロトニンが多くポジティブに物事をとらえる人が多いと思う。

 

毎週僕は104才の女性に会う。調子はいいと笑い、炭坑節を歌ってくれる。

「長生きの秘訣はなんですか?」

「は~、そんなのはない。まあ、おいしくご飯食べて、笑っとくことかなあハハハハハー」

もちろんマイペースで周りの空気など読まない(笑)。この方の脳は、どうなっているのだろう。ホッホホホ~~。次回をお楽しみに!

フクロウ館長より

 

 

▼所蔵情報

opac.lb.nagasaki-u.ac.jp

 

【黒にゃんこ司書のつぶやき】

こんにゃちは!真面目でネガティブなタイプの黒にゃんこ司書です。著者の中野さんによると長生きタイプですが、細かいことに拘らず笑って過ごした方がどう考えても健康につながるような気がします。ネガティブな要因はヒマな時に余計なことを考えることからくるので、もし私と同じ傾向の方がいらしたら、「ネガティブを潰すのはポジティブではない。没頭だ。」という芸人オードリー・若林さんの言葉(『社会人大学人見知り学部卒業見込. 完全版』, 142ページ, 図書館にあります)を贈ります。それじゃまたにゃ~♪