ぶらりらいぶらり:長崎大学図書館ブログ

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【連載第2回】フクロウ館長イチ推しの本

第2回:死にたい夜にかぎって (爪切男著 2018年 扶桑社)

「いままで、本気で好きになった人って、どんな人?幼稚園とか小学校時代じゃなくてさ、本気で恋した相手」「そうね~、誰かなあ~~ああ~、やっぱり大学1年生に出会った人かなあ~、いや、そうでもない、一番は…」コロナ前、僕は思案橋を舞台に恋愛小説を書こうと思って、会う人会う人に、同じ質問をしていた。

 

恋多きその女性は、水割りをくるくると回しながら、沢山のファイルから誰を出そうか悩む。「いやだなあ~、私の恋にファイルなんてないわ。女の恋は、上書きって言うじゃない。だから、きっと、次の恋が一番になるわ」と、微笑みながらカウンター越しにハイボールを渡してくれた。隣の女性が「聞いてくれる?私なんかの話、私の最初で最後の恋」と、持ち出される話は、長く重い。そして、思案橋の恋は、小説『長崎ぶらぶら節』(なかにし礼作、直木賞受賞作)の主人公の愛八の恋のように切ない。

 

現役の女子大学生の話も聞いたことがある。進行形の恋には、勢いがある。「たぶん、こんなに人を好きになることは、これから絶対にない。彼が一番」。

 

今の時代、男性や女性の区別なく恋をすることは自由だ。しかし、恋の語り手となると、女性の方が圧倒的に、面白いと僕は思う。『源氏物語』の紫式部、『みだれ髪』与謝野晶子、数年前のドラマで話題となった『逃げ恥』海野つなみ………。

男性の語り手は、どこか自慢とか照れとか反省を入れてくる。たぶん、客観的に語ろうとするからだろう。恋は、あくまで主観的なのだから、物語の読者としては、どっぷり感情がはまり込んでどうしようもない深みにはまり込み、抜けられない沼でもがいて欲しい。

 

今回、紹介する『死にたい夜に限って』の作者<爪切男>は、男性だ。

実話の恋の話のようだ。えっ、これでも、また、本当に? ウソでしょう…という凄まじい展開が続く。僕は、絶対にこんな恋愛はできない。いや、普通の人にはできない、損得とか理性とかが働くから。ネットで火がついて、ドラマ化された恋の話だ。いわゆるダメ男、ダメ女が沢山でてくる話だが、恋愛に限っていえば、誰でもそうなのだ。秋の夜長に、お勧めの本だ。間違いなく、寝苦しくなるが、一気に読んでしまう。

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「互いに時間の無駄だったね。マジで。でも、最高に楽しい時間の無駄遣いだったよ。ありがとう」というセリフが出てくる。この達観した恋は何だ、と脱帽する。また、「どうせ、縮んで死ぬんだから若い今を楽しむ方がいいよ」と、ホームレスのおじさんが言う。同感。

 

コロナ禍でもどかしい今、人と人は、この本のような恋ができるのだろうかと、心配になる。結婚数も出産数も落ち込んでいるというニュースを聞いた。でも、そんな年寄りの杞憂などそっちのけで、若い人達は出会い、恋をするだろう。

 

あたらしい学期が始まった。キャンパスのどこかであたらしい恋が始まればいいと…僕は、思う。コロナ明けに、コロナ禍の君たちの恋バナを聞くことをひそかに楽しみしている。そして、僕はその話を小説にする。たぶん、出だしは、こうだ。

 

『その人は、図書館の前のベンチで、マスクを外した。その瞬間、私の目の前に桜吹雪が舞った…、否、そんなことはあり得ない。でも、全力で、この人を好きになる予感がしたのは確かだ。最後の緊急事態宣言が解除された春だった。互いに、20歳。私たちには、何一つ恐れるものはなかった。』

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フクロウ館長(長崎大学附属図書館長 浜田久之)

 

f:id:nulib:20210826132338p:plain【黒にゃんこ司書のつぶやき】

お酒の匂いのする冒頭。勝手な想像ですが、先生、この原稿、酔っぱらいながら書きましたね。。バーでたまたま出会った人と恋バナなんて、オトナなシチュエーション! でも、しゃべったご本人は、こんなところでネタにされているとは思わないでしょう。もし先生の恋愛小説が発表されたら、ここでどなたかに書評してもらいましょうね。