「プラネタリーヘルスを学ぶ」をテーマに、各領域で学び研究する大学院生の皆さんに集まっていただいた今回の学長×学生対談企画。
「中編」も、引き続きお楽しみください。

(左から)
浜田図書館長(崎長ライト)
森保先生(プラネタリーヘルス学環・グローバル連携機構)
エイドリアン・マハシ さん(多文化社会学研究科 博士後期課程1年)
永安学長
ヘンカー 寛子 さん(プラネタリーヘルス学環 博士後期課程3年)
田仲 菜都子 さん(総合生産科学研究科 博士前期課程1年)
【開かれた学環で学ぶ重要性】
崎長 それでは、ここからは学問的な部分について、
掘り下げていってみたいと思います。
長崎大学は現在、10学部6研究科3研究所と大学病院を擁する総合大学です。
ユニークな学部、附置施設として、多文化社会学部、熱帯医学研究所、
原爆後障害医療研究所、核兵器廃絶研究センター等があります。
近年、新たな学際組織であるプラネタリーヘルス学環を立ち上げており、
つい先日、プラネタリーヘルス学環の2つ目の学位プログラムである
グローバルリスク研究院(博士課程)の設置(2026年10月1日)が
文部科学省より認められました。
これらは、既存の学部や学科の枠組みにこだわらず、
学問の枠を超えて多種多様に、横断的に学び、
さらに、課題解決のために、英知を集めて課題に取り組むという
挑戦的な取り組みです。
崎長 さて、今日は、このようなパネルを用意してきたのですが・・・。


崎長 これが、長崎大学が目指すプラネタリーヘルスの学問的な3つのキーワード
「グローバルヘルス」「グローバルリスク」「グローバルエコロジー」と
学部等との関係になるのですが・・・。
ヘンカーさんは、プラネタリーヘルス学環のご所属ですが、
これでいうと、研究内容はどの辺りに位置しますか?
ヘンカーさん 難しいですね・・・。
医療の方から地球の健康のことを考えよう・・・というところなので、
この間の辺りかなと思うのですが。


ヘンカーさん 私自身の興味としては、医療界そのものが人の健康ということを
中心に考えるものですが、その人の健康には当然「環境」が影響している。
そのため、医療の活動自体も影響を与えている
っていう部分にもう少し焦点を当てていってもいいのかな
と思いながら、やっています。
崎長 ヘンカーさんは、もともとはお医者さんなんですよね。
その頃から、プラネタリーヘルスに興味があったんですか?
ヘンカーさん いいえ。プラネタリーヘルスという言葉を知ったきっかけですが、
当時、ラオスで医療の質を向上させるためのコンサルタントを
やっておりまして。
エビデンスがあっても、なかなか現場では実装できない
「実装の難しさ」を感じて、一度、学問に戻りたいなと思って、
ドクターレベルの分野を探していたんです。
その中で、長崎大学がいいなと思い、最初は別のプログラムを
考えていたんですけれど、その時の窓口の先生に
「私がやりたいことはこういうことなんです」って形でお話をしましたら、
「こういうプラネタリーヘルスっていうのがあるんだけれども、
こっちの方があなたの興味に合うんじゃないですか」っていう風に
ご紹介されて、プラネタリーヘルスという言葉を初めて知りました。

ヘンカーさん プラネタリーヘルスは非常に大きな概念ですし、
本当に対象が多岐にわたるので、大学でお話を色々聞いて、
講義を受けたりするなかで、どんどん解釈が変わってくるというか、
解釈が深くなるという感じです。
崎長 学部生には「学環」というものに馴染みがないと思います。
普通は、例えば経済学部や医学部などで学びますけれど、
学環で学ぶというのはどんな感じなんでしょうか。
ヘンカーさん 全ての学部に所属されている先生方が授業をしてくださるので、
そういう意味で「開いている」感じがします。
例えば、医学部にいて、他の学部の先生と深く関わることは
難しいというか、窓口がない感じがしますが、プラネタリーヘルス学環では、
そもそも最初の「プラネタリーヘルス特論」という科目に水産学部の先生や、
法律の先生、多文化社会学部の先生も来てくださる・・・という形で
色々な学部の先生との接点を既に用意していただいているので、
そこから「もっといろんなことを聞きたい」っていう時に、
先生方にアプローチするための間口が開いている感じがします。
ヘンカーさん 違う領域の話で、「これはプラネタリーヘルスに関連するのかな?」
「この組み合わせで、プラネタリーヘルスというものをどういう風に
考えたらいいんだろう?」って思うこともありましたが、
研究を進めるなかで、少しずつ繋がりがわかる感じがします。
【深く研究科で追及しアウトプット】
崎長 なるほど。ありがとうございます。
田仲さんは、総合生産科学研究科の1年目ということで、
学部との違いはどうですか?
田仲さん 学部の4年次までだと、水産に関する幅広いことを扱う・・・
という感じだったんですけれど、院に入って1年目ですが、
特に大村湾について、一つの場所の環境についてずっと見続けることで
色々なことを学ばせてもらっているなと思います。
崎長 学部の時は、どちらかというとインプット、インプットで、
卒業研究で少しアウトプットする・・・
という感じの学びだったと思うのですが。
田仲さん そうですね。
崎長 院生になると、その辺りはどの様な感じになるんですか?
田仲さん 学部時代は、「こういう風に研究したらいいんじゃない」と言われたり、
なんとなく興味がある・・・という感じで4年次に1年間だけ
研究をしたんですけれど、院生になると、
もう本当にその分野だけに打ち込めるので、環境とか水産について、
学部生時代よりも考えることが増えました。

崎長 どうして大村湾のクロロフィルの研究に興味を持ったんですか?
田仲さん 最初は、所属する研究室が大村湾をメインに研究しているので、
それでだったんですけれど・・・。
大村湾自体がそんなに大きい湾・大きい海ではないのですが、
その中でも漁業がちゃんと行われていて。
自分の研究対象であるクロロフィルや植物プランクトンは、
その漁業の餌となる生物だったり、
そういう「研究の基礎」になるところだなって思っています。
崎長 大村湾って、外海との入口が狭く、湖のように閉じた感じですよね。
やっぱり、特殊な環境なんですか?
田仲さん そうですね。水の出入りがすごく細いところから行われるので、
海水交換が少なくて・・・。
さっきも少し話題に出ましたが、夏に表面がすごく温められて、
海水交換も少ないので、下の方と上の方の温度差がかなりできて、
下の方まで水が回らなくなって、貧酸素水塊(ひんさんそすいかい)が
できてしまいます。
崎長 貧酸素水塊・・・、はじめて聞く言葉ですね。
田仲さん 水中における溶存酸素量が4.3mg/L未満だと貧酸素水塊と
言われるんですが、大村湾だと、長い時は本当に1か月ぐらい
「酸素ゼロ」の状態が続くことがあります。
酸素が全くない状態で、それにより大村湾で養殖されている魚が
大量に死んじゃったり・・・。
学長 海底の土を掘って、酸素を混ぜる・・・という取り組みが
大村湾ではなされているよね。
田仲さん はい。確かナマコが大村湾では有名なんですけれど、
2025年もかなり漁獲量が減ったと・・・。
学長 そうだよ!

崎長 減った減った、ナマコの値段がめっちゃ上がっていた記憶がある。
田仲さん 正月に長崎ではナマコを食べるんですよね?
学長 そう、食べるよ。美味しくて、有名だよ。大村湾のナマコ。
田仲さん そうなんですね!
崎長 お正月のナマコをいつまでも・・・(笑)。
さて、田仲さんの研究は、このパネルでは、どの辺りに位置するものですか?

田仲さん そうですね・・・。海洋環境関係なのでグローバルエコロジーの・・・
この辺りになるかと思います。
ただ、食料問題というところに水産が関わってくることも考えたら・・・。
学長 (グローバル)ヘルスにも近いと言えば近いよね。真ん中辺りかな。
田仲さん 確かに・・・この辺で。
学長 ヘンカーさんも、もう少しこの辺りだよね。

ヘンカーさん そうですね・・・。もう少し真ん中寄りになりますね。

【グローバルな視点で研究】
崎長 最後に、エイドリアンさんはどうでしょう。
まず、日本に来てどれぐらいですか?
エイドリアンさん 4年ですね。研究生として日本に来た後に、
多文化社会学研究科のマスターに入りました。
崎長 研究生とマスターとで、大分違いはありますか?
エイドリアンさん マスターコース(修士課程)では、
もう少しジェネラルに、被疑者・被告人の人権っていうのは
どうなっているのかっていうところを扱いました。
実際に逮捕される時に、例えば逮捕状がない時の逮捕はどうなのか、とか、
逮捕状はどういう条件で出されるか、とか、逮捕にかかわる制度的なものを、
もっと詳しく、個人の人権をベースとして、それを守るためにどういう
手続やルールが必要か・・・
というようなことをより深く扱うようになりました。
崎長 そもそも、なぜ日本に?
エイドリアンさん ケニアで法学部を出ているんですが、
もっと法学を学びたいと思った時に、ケニアだと法は法学部でしか
扱っておらず、法学研究科に行くしかありませんでした。
兄が長崎大学の水産・環境科学総合研究科で博士号をとっていて、
進学ではなく「兄がいるから」日本に遊びに来たときに、
長崎大学を色々紹介してもらって。
長崎大学は、法学部がないんだけれど、水産学部や多文化社会学部などで、
「色々な社会で実際に法がどういう風に使われているのか」という観点で
学べるのがすごくいいなと思って、長崎大学に行きたいと思い、進学しました。
崎長 なるほど、そのような事情だったんですね。
エイドリアンさん ええ、現在は、逮捕や捜索・差押え制度について、
5つの国(日本、アメリカ、イギリス、ケニア、インド)の
比較法的な研究をしています。
崎長 グローバルな視点の研究だから、多文化社会学部なんですね。
なるほど。このパネルでいうと・・・。
エイドリアンさん (グローバル)リスクの真ん中辺りですね。


崎長 文系の学部ですが、グローバルヘルスやリスク、プラネタリーヘルスを
どのようなときに意識しますか?
エイドリアンさん そうですね、健康な暮らしとか、いい環境に住むとか、
美味しい食べ物を食べるなどは、全て基本的人権に関わるものなので・・・。
私の研究は人権に関するもので、それはもう全て、プラネタリーヘルスに
関わることだと思っています。
崎長 確かに、人権って、プラネタリーヘルスですよね。考えてもみませんでした。
エイドリアンさん そうなんです。例えば、警察の捜査や逮捕で、
人権が守られない場面がありますが、
日本の刑事手続の制度はしっかりと人権を守っているので、
そういうものを学び比較し、人権を享受するための共通の課題として、
各国の良いところを学びあって、人権を守れるような法や政策を
作りたいと考えています。
崎長 素晴らしい!
学長、どうでしょう。プラネタリーヘルスで学んでいる皆さん、
レベルが非常に高いですね。
学長 高いね~。感心、感心。(笑顔)
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崎長 それぞれの学生の皆様が、熱のある研究をしていることがわかりました。
次回は、そのまとめと、研究にまつわる本をご紹介します。
引き続き、楽しみにしていただければ幸いです!
(編集注)
本対談は日本語と英語を交えて行われましたが、ブログ掲載にあたり、内容はすべて日本語に翻訳し編集しております。(当日の通訳:森保先生)