『近畿地方のある場所について』
背筋著(KADOKAWA, 2023.8)
斜面の上に人が住み、斜面の上に死者が眠っている。
長崎は、そんな街だ。至る所に墓地がある。都会のように大きな墓地公園はない。おそらく、入り組んだリアス式の地形のためだろうが、他にも理由があるのかもしれない。
僕が中学時代を過ごした家は、まさに斜面の上にあった。
その家と小さな道を挟んだ下側に墓地があった。夏の日、部屋の窓を開けると、長崎(九州)特有の墓の金色の文字がまぶしく反射していた。お盆が近づくと、夜遅くまで爆竹の音が響いていた。中学生の僕は、特別死者や霊を意識したことはなかったと思う。
でも、僕ら中学生は怪談が好きだった。よく夕暮れに、墓地の横の階段に座り込んで、「口裂け女」「ノストラダムスの大予言」等の定番の話や、「エクソシスト」「犬神家の一族」等の映画の話や、自分たちが体験した話を大袈裟にするのだった。
「知っている? 稲佐山の中腹あたりに出るっていう話」
「知っとるよ、兵隊さんの幽霊やろう?」
「いや、女の人の、白い服着たおばあさんの幽霊。いや、俺、マジで見たんよ」
「うっそ~~!」
等と盛り上がり、夏の夜いつまでも話し込み、
「あんたたち、いつまでしゃべりよっとね、いいかげんにせんね!」
と、母親に怒鳴られるのであった。懐かしい時代である。ちなみに幽霊の正体は、近所のお婆さんが夜、風呂上りに寝間着の白いワンピースで歩いていただけ…というオチがあったのだが…(笑)
本書は怪談本である。ネタバレしないように言うと、本当か嘘かの噂、つながっているのか、つながっていないのかの事実、いくつかの証拠のようなものを上手に展開させてゆく構成であり、最後まで一気に読ませてくれる。
小説投稿サイト「カクヨム」で、異例の1400万PV(2023年8月30日時点)となり、2023年8月30日に書籍化された。怖すぎると話題になった本で、今も売れているようだ。この異常すぎる夏の暑さ、ちょっと涼んでみたい人はぜひ読んで欲しい。眠れなくなってしまうから、要注意である。オ~ホホホッ(怖)、次回をお楽しみに。
▼所蔵情報
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【黒にゃんこ司書のつぶやき】
こんにゃちは、黒にゃんこ司書です。今回の本はタイトルからも日本ホラー特有の湿度を感じてますね。ホラーといえば、貞子、ジェイソン、エクソシスト等、映画も有名なものがたくさんありますよね。数年前に見た映画『ミッドサマー』が、私の中で今のところダントツの怖さです。北欧のとある地方、明るい昼間に花に囲まれて行われる夏至祭が舞台、と聞くと怖い要素ゼロなのですが・・・人によってはトラウマ級。あまりおススメできません。もし見て後悔しても、クレーム受け付けませんのであしからず。それじゃ、またにゃ~♪