ぶらりらいぶらり:長崎大学図書館ブログ

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【連載第33回】フクロウ館長イチ推しの本

『生きかた上手』 日野原重明著 (ハルメク, 2016)

日本の医師といえば、日野原重明先生。105歳まで現役医師だった先生。1911年山口県で生まれ、病弱で赤面症だったが努力家で、現役で京都帝国大学医学部合格。在学中結核に罹患し休学。循環器内科医となり、聖路加病院で働く。

 

1945年に志願して大日本帝国海軍軍医少尉に任官するが、急性腎臓炎のため入院となり除隊。1951年エモリー大学医学部内科に1年間留学……、105歳までご存命であったので、延々と履歴は続くのだが、日野原先生の人生には、山あり谷ありというよりも、劇的な、運命としか言えない出来事が数々起こる。音楽好きの先生は、心音の研究で、戦前になんと、アメリカの有名雑誌に掲載されている(Shigeaki Hinohara, "Systolic gallop rhythm" American Heart Journal, vol. 22 issue 6 (1941), 726-736)。でも、京都大の内科教授のポストを断ったそうだ。1970年には、よど号ハイジャック事件の乗客となった(僕は、かすかに覚えている)。世界中が大騒ぎした事件だ。この事件により、日野原先生の人生観が変わったそうだ。さらにいろいろあるが、なんといっても、1995年オウム真理教が起こした地下鉄サリン事件の時に、聖路加病院の院長として病院を開放し、トリアージをして640名の治療にあたったことは、忘れてはならない事実だ。

 

以上は、ウィキペディアを参考に書いたが、以下は僕の個人的体験だ。

 

実は、日野原先生には3回お会いしたことがある。

日野原先生は、いろんな分野に多大なる貢献をされているが、医者や医療者を育てるための「日本医学教育学会」という学会の設立に大きく関わられている。だから、その学会には、日野原賞という学会貢献者に贈られる賞がある。毎年ではないが、医学教育学会で日野原賞の授与式や特別講演をなさっていた。

 

僕はたぶん2000年前後にその講演を聞き、2006年には少人数の教育ワークショップ(富士研)で先生の講義をお聞きした。3度目も、その後の医学教育学会で講演を聞き、写真を撮らせて頂いた。言葉を交わすことはなかったが、伝説の人と会ったという感激で胸がいっぱいだった。正直、歌ったり、踊ったり(ミュージカルにも出演)する90歳超えのこの人は本当に人間か? サイボーグではないのか? と思った(笑)。あと、話がかなり具体的で、実務的なことも話されたことを覚えている。例えば、教育にかかるお金や人材のことなどを具体的な数字で話されたのは、ちょっとびっくりしました。ああ、日野原先生は、現役の医療者なのだ、と思った。

 

今日紹介する『生きかた上手』は、2001年に発行され、ベストセラーとなった本だ。累計240万部というから凄い。内容はタイトルの通りだ。当時、高齢者はまだ「老人」と呼ばれていた頃だ。年老いた人は、病気になって弱っていって、寿命を全うするのが当たり前で、その他は何もない…みたいな感じだったと思う。少なくとも、30代の僕はそんなふうに思っていた。この本は、そんな考えをひっくり返す本だった。だから、ロングセラーとなったのだろう。要するに、生きることには終わりはない、前を向て歩いていいのだ、というメッセージだと思う。

 

以下の目次だけ見ても、内容は想像つくと思う。

  1. 何事もとらえかた次第
  2. 長生きはするもの
  3. 寄り添って生きる
  4. いきいきと生きる
  5. 治す医療から癒す医療へ
  6. 死は終わりではない

 

かなり具体的な内容に踏み込んでいるので、若い人にもきっと面白く読めると思う。医療者を目指す人には、ぜひ読んで欲しい。

 

さて、最後は宣伝。いや、この宣伝のために、この本を選びました(笑)。

なんと、なんと、日野原先生らが創設した日本医学教育学会の学術大会が、2023年7月28日~29日、長崎で開催されます!(拍手)

 

会長は、僭越でございますが、図書館長にして医学教育専門家であります浜田久之が務めさせて頂きます(拍手、ありがとうございます(笑))。

 

実行委員長は、若手ホープの松島加代子教授であります。ぜひぜひ、ホームページにアクセスして楽しんで頂ければ幸いです!

www.c-linkage.co.jp

 

ホッホホ~~~。市民公開講座もあります! 出島メッセで待ってるよ~~。

 

▼所蔵情報

生きかた上手 | 長崎大学附属図書館 OPAC

 

▼これまでの書評はこちらから読むことができます。

booklog.jp

 

【黒にゃんこ司書のつぶやき】

こんにゃちは。黒にゃんこ司書です。今回はフクロウ館長憧れの人・日野原先生のご著書でした。いつもよりさらに熱を帯びた感じから、憧れ度合いが伺えます。今回紹介するにあたり図書館で購入した本は2013年発行の新訂版ですが、冒頭に掲載されている日野原先生による「新訂版に寄せて」という文章は101歳の時に書かれたものです(驚愕)。医療者以外の私たち一般人にも感じ入る言葉が詰まった本書、ぜひ手に取ってみてください。それじゃ、またにゃ~♪