『幸せはあなたの心が決める』
渡辺和子著(PHS研究所, 2015.9)
幸せになりたい。
もちろん自分だけでなく、自分の家族や友人や仕事仲間や、日本の人々が、海を越えた世界の人々が幸せになってほしい…と願う。年の初めに手を合わせて、今年こそは争いのない平和な日々を皆がすごせますように…と毎年願う。
毎年願っているということは、逆に言えば、毎年実現してないことかもしれない(笑)。だけど懲りもせず、神仏にそう願わずにはいられないのが人たる所以であろう。
つまり、人というのは不完全なのだ。自分の望みが100%叶えられ、何の不満も不安もない人や、完璧な人生を送っている人は地球上にいない。人は何らかの悩みを持ち、生き続けているのだが、その悩みの根源は血縁やカネや地位や名誉ではない。悩みの根源は「人」なのである。
「あの人が、ああ言う(する)から、結局こうなり、自分にも影響が…やめて~」
「テレビによく出てるあんな人がいるから、世の中は良くならない…まったく~」
「この人は実はこれこれこうで、言ってることとやってることが違う…勘弁してよ~」
人は人を評し、噂話をする。他人の不幸や批評は蜜の味なのだ。SNS時代、それは加速してゆく。しかし、他人のことを揶揄すればするほど、なぜか自分自身の気持ちは楽にはならない。
「自分は何をやってもダメ。あの人と比べると全然取り柄がない。ハぁ~~」
「やらなければならないと分かってはいますよ。私もバカじゃない。でも忙しすぎて、何もできない。言い訳ばかり。あ~もう、こんな自分は嫌だ~~」
「私? 私なんか何にもない。ぼっ~と生きてきました。ハハハ~、笑うしかないですね」
人は人と比べて、自分を軽蔑し、自己嫌悪に陥る。いくら努力して綺麗になろうが、働いて金を稼ごうが、SNSでバズって「いいね」を沢山取ろうが、昇進して偉くなろうが、同じだ。常に人と比べ、焦り、悩み、落ち込む。
本書の著者・渡辺和子先生は言う。
「人を許した時、許した人は自由になる」
他人も、自分も許してあげよう。もう、いいじゃないか、あなたはあなたのままで。
「失ったものでなく得たものに目を向けて生きよう」
今ある、今得たものでも十分じゃないか。それを大切にしようじゃないか。
本書の著者・シスター渡辺(1927-2016。ノートルダム清心学園理事長)は、学長、理事長として、長く教壇に立った人である。9歳の時、二・二六事件で陸軍総監であった父・錠太郎が、青年将校に目の前で射殺されたという歴史的な事件の渦中の人であった。その後、18歳でカトリックの洗礼を受け、上智大学大学院修了後、米国に渡り、36歳の異例の若さで岡山のノートルダム清心女子大の学長に就任した。東日本大震災後、2012年に書いた『置かれた場所で咲きなさい』は、200万部のベストセラーとなり、社会現象ともなった。
本書はその後に書かれたエッセー集である。煩悩多き僕は時々、寝る前にこの単行本を開き、懺悔するように読む。
「今日も、ダメだったなあ~」
僕は内科の医師で、ほぼ毎日新人医師を現場で指導している。いわゆる他人を教育する業務をひたすらやってきて、気づいたら25年経っていた。でも、一向に上手にできたという実感はない。1年に数回は「本当に勉強になりました」と言ってくれる研修医がいて、その研修医の変化を感じることがあるのだが、そんなことは稀である。
本書を読みながら思う。結局は、自分の問題なのである。人は自分の写し鏡。研修医の反応は、自分の姿そのものであろう。そうやって研修医のことで悩み、自分の指導を後悔しながら、眠りについたりする日々である。
しかし、最近はこう思うようにしている。
自分は幸せなのだ。そう決めよう。いろいろあるが、仕事を愛し、家族を愛し、友人や仲間を愛し、長崎を愛し、研修医教育を愛し、図書館を愛する自分は幸せなのだ。
様々な仕事や雑用(?)を、おかげさまで「させて頂いている」(本書)。
「自分以外は(研修医でも)、すべて師」(本書)なのだ。
師から仕事をさせて頂いている、生かさせてもらっているのだ。
「幸せは、あなたの心が決める」と、シスター渡辺は言う。
今年もあなたの周りでは、きっといろいろあるだろう。でも、あなたが「自分は幸せ」と決めて、あなた自身や周りの人々を愛せば、あなたの人生はきっと変わるのではないか・・・そう思わせてくれる、年の初めに読むにはうってつけの素敵な本である。
ホ~ホッホ~、今年も沢山本を紹介しますよ~。
ぜひ図書館へ遊びに来てくださいね~、ホ~ホッホ ♪
▼所蔵情報
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【黒にゃんこ司書のつぶやき】
こんにゃちは、黒にゃんこ司書です。本年もどうぞよろしくお願いいたします。年の初めにふさわしく、背筋が伸びるような文章を味わえる本書。私が気になった一文は、「「面倒」だから、する!」(117ページ)です。マメに動くからこそ、結果的に面倒を避けられる、という考え方にハッとさせられました。ぜひ読んで、みなさんそれぞれの「これは!」という一文を見つけてみてください。それじゃ、またにゃ~♪