『理不尽に勝つ』平尾誠二著 (PHP研究所, 2012.5)
~闘い、乗り越え、強くなる~
「お前たち、水飲むな!」
と、ラグビー部の先輩の怒号が高校のグランドに響く。
「罰として、あとグランド3周!走れ、走れ!」
僕達は、渋々走り出す。罰とは、先輩に挨拶がない(気づかなかっただけ…)、練習に遅刻した(補習が延びただけ…)、気合が足りない(先輩の機嫌が悪いだけ…)等々の理由で、僕達は日々走っていた。今となれば信じ難いことだが、練習中の「水を飲むな」「罰として鍛える」は昭和のスポーツ界の定番だった。
「よっしゃ!走ろう!」
僕達は再び走りだすが、交代で隠れてトイレに行って水を飲んでいた(笑)。
こうやって高校の3年間ラグビーボールを追いかけた。
そもそも、ラグビーは理不尽極まりないスポーツの最たるものである。
15人対15人で戦う陣取り合戦でボールを相手のゴール内に置けば「トライ」となり得点をもらう。しかし、ボールを前にパスしてはいけないという理不尽なルールがある。サッカーやバスケットは、ボールを前にパスして陣地を攻める。
だが、ラグビーはボールを後ろに投げながら前に進むという、わざわざ面倒なことをさせる。さらに、ボールが丸くない。楕円形なのだ。どこに転がるかわかからない。自分の方に転がれば幸運、相手に転がれば不運。やっぱり、理不尽。
しかし、「理不尽だからおもしろい」と、本書の著者・平尾誠二は逆説的に語っている。
彼は、日本で最も有名なラグビー選手と言っても過言ではない。伏見工業高校で花園ラグビー大会優勝、同志社で大学選手権三連覇、神戸製鋼で7年連続日本一。その後、日本代表の監督も務めた。ラグビー界のスーパースターで、ラガーマンであるノーベル賞学者の山中伸弥博士も彼を尊敬し、親交があったのは有名な話だ。同世代の僕達もずっと彼の後ろ姿を追っていたが、残念ながら53歳で鬼籍に。
平尾曰く、人間は理不尽を背負って生まれてくる。人は平等に生まれてこない。生まれてくる国や親は選べない。天賦の才能に恵まれるのは一握り。生きてゆく上でふりかかる理不尽な出来事はいくらでもある。だからと言って、僕達は、理不尽を嘆き、一生愚痴を言って生きるべきではないと、平尾は本書で熱く語っている。理不尽を経験すればするほど人は強くなり、理不尽を乗り越えたところに人生の喜びがある、と。
「やっぱ、平尾、かっこいい!」と、本書を繰り返し読み勇気づけられ僕達は、ラガーマンの端くれとして生きてきた。僕は医療分野、チームメイトは金融業、小売業、交通産業等のそれぞれの業界で理不尽と闘いながら頑張ってきた。
今年、僕達はラグビーワールドカップで日本代表を応援している。僕達とは高校時代のチームメイト4人。積立貯金をして還暦修学旅行と銘打って、フランスで日本代表を応援する。もちろん赤と白の縞のラグビージャージと、本書をスーツケースに入れてゆく。平尾誠二の熱い魂と共に応援したい。
「走れ、前へ、ジャパン!」
(※以上は2023年9月24日掲載の長崎新聞記事「この本読んでみた!」を再編集したものです。)
【追伸】スタジアムの多くのフランスの人たちは、胸に桜のエンブレム(ラグビー日本代表「BRAVE BLOSSOMS」)のユニフォーム着て応援してくれた。イングランドに惜敗したけど、これからも応援してゆきたい~オーホッホホ。
▼所蔵情報
理不尽に勝つ / 平尾誠二著
請求記号: 783.48||H67
図書ID: 1624519
https://opac.lb.nagasaki-u.ac.jp/opc/recordID/catalog.bib/BB09276737
これまでの書評はこちらから読むことができます。
▼崎長ライト(長崎大学図書館長)の "この本読んでみた!"
https://booklog.jp/users/sakinagalight
【黒にゃんこ司書のつぶやき】
こんにゃちは。フランス還暦旅行いいなぁ~うらやま~と、お土産にもらったチョコをおやつに食べる黒にゃんこ司書です。「ラグビーは理不尽極まりないスポーツの最たるもの」の一文に、門外漢の私は思わず笑ってしまいました。確かに何であんな形のボールを追いかけまわしているんだろう…よく考えれば酔狂なスポーツですよね(ヒドイ)。ちなみに、今回の書評本の著者・平尾誠二さんと山中伸弥先生の友情を描いたドラマが、なんと11月に放送されるそうです!
ドラマスペシャル「友情 ~ 平尾誠二と山中伸弥『最後の一年』 ~」
https://www.tv-asahi.co.jp/yujo/
本書を読んで気になった方は、チェックしてみてはいかがでしょう。それじゃ、またにゃ~♪