ぶらりらいぶらり:長崎大学図書館ブログ

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さよなら諭吉 よろしく栄一 :新札発行にちなんで

皆さんもニュースなどでよくご存知のとおり、7月3日、今使われているお札が新しくなります。
今回の新札は、戦後6回目の改刷となり、「F券」と呼ばれます。
戦後のお札で、それぞれの時期の最高額面にあたる昭和21年発行の「A百円券」、昭和25年発行の
「B千円券」、昭和33年発行「C一万円券」の肖像画はずっと「聖徳太子」でした。
聖徳太子の1万円札、懐かしい!(…と言うとトシがばれます)

昭和59(1984)年の「D一万円券」で肖像画は「福沢諭吉」になりました。その後、平成16(2004)年の
改刷(E券)では、「千円券(夏目漱石野口英世)」と「五千円券(新渡戸稲造樋口一葉)」は肖像が
変わりましたが、一万円券肖像画は「福沢諭吉」のままでした(券面デザインの変更のみ)。
今回の令和6(2024)年改刷で一万円券肖像画が変わるのは、実に40年ぶりなんですね。
そして一万円券の戦後3人目の肖像となったのは『近代日本経済の父』と呼ばれる「渋沢栄一」その人です。(出典:国立印刷局ホームページ『お札の歴史』より)

経済学部分館ではこの新札発行にちなんで、
「さよなら諭吉 よろしく栄一 ~新旧1万円札(の中の人)とお金のはなし」という展示を始めました。


明治の思想家・教育者の福沢諭吉と実業家の渋沢栄一は、立場は違えども、ともに日本の近代化に
多くの功績を残し、また、互いにとても尊敬しあっていた間柄であったそうです。
今回の展示ではそんなふたりの思想や、お金や経済について学べる本を集めてみました。
そのなかから、少しご紹介します。


論語と算盤 : 現代語訳』 渋沢栄一著 ; 守屋淳訳 図書ID:3170394

江戸時代、武士階級に広く浸透していた「朱子学」では「商売は悪」とされていました。
日本の近代化のためには商業や貿易の発展が不可欠と考える渋沢栄一は、まず、「朱子学の根本にある『論語』に立ち返ろう、『論語』を正しく読めば、孔子は決して富を追求することが悪しきものだとは言っていないことがわかる」として、日本人の意識改革をうながしました。また「商売とは誘惑に陥りやすいものだから、道徳的規範がなくてはならない」とも説きました。「論語と算盤(そろばん)」というタイトルは、渋沢栄一のこの思想を表現したものだったのですね。

また、福沢諭吉の名著といえば皆さんもよくご存知の『学問のすすめ』です。


『図解学問のすすめ : カラリと晴れた生き方をしよう』 齋藤孝著 図書ID:3187750

こちらは、教育学者の斎藤孝さんが原著のエッセンスを分かりやすくまとめたものですが、
学問のすすめ : 現代語訳(福澤諭吉著 ; 齋藤孝訳/図書ID:3190482)』もあります。
福沢諭吉もまた、西洋の思想を世に広めることで思想教育の面から日本の近代化を推し進めようとした人でした。「学問の…」というタイトルになっていますが、学問だけではなく、幅広く人生のいろいろな場面で役に立つ思想が盛り込まれています。経済的な面では「自身の生活の基盤を確立するのに財を成すことはよいことだが、財産に振り回されて精神の自由を失うようではいけない。『銭を制して銭に制せられず』」との言葉があります。

このような考えは渋沢栄一の「論語と算盤」の思想にも通じるところがあるように思います。渋沢氏は晩年に「福沢先生は口で説き、自分はそれを実践したのだ」との言葉を残されたそうです。
明治日本の近代化を、実業と思想啓蒙の両方から成し遂げたふたりの言葉にぜひ触れてみてください。

時代は変わって、現代ではお金の概念が大きく変わってきているように思います。
先日「小学校の算数の問題でおつりの計算をさせようとすると「先生、おつりってなに?」ときょとんとするこどもが増えている」という話を聞いて、キャッシュレス化が進んで「お金(お札や硬貨)」を実際に使ってみたことのないこども達がいるという事実にちょっと考えさせられました。
しかし、そういう私も「ビットコイン」とかいう新しい概念に至ってはさっぱり理解できないでいるのですから、おつりを知らないこども達と大差ないかもしれません。


『お金2.0 : 新しい経済のルールと生き方』 佐藤航陽著 図書ID:3185558

テクノロジーの発達とともに出てきた「暗号資産」「ブロックチェーン」などの新しいシステムを理解するには、既存の概念だけでは不十分だと著者は言います。なぜなら、これらの仕組みは「お金2.0」ともいえるまったく新しい概念のうえにあるからです。この本は、経済の専門用語をあまり使わずに新しい仕組みをどう読み解くべきかを教えてくれます。

一万円札のことを「諭吉さん」という言い方も変わるのかな?
新しいお札、早く見てみたいですね。
Rig