ぶらりらいぶらり:長崎大学図書館ブログ

長崎大学附属図書館からお届けするブログです。 ぶらり、ぶらりと図書館へどうぞ。

121年前の美しい本

経済学部分館「武藤文庫」には、経済学部の前身である長崎高等商業学校の教授、故武藤長蔵博士のコレクションだった資料が収められています。一部は長崎学資料展示室にも展示されていますが、多くの資料は鍵のかかった貴重書収蔵庫に保管されています。

先日、この武藤文庫に所蔵されている1冊の本を、利用者の閲覧希望に応じて出納しました。返却された際にふと見ると、タイトルに「KOKORO」という文字が…。
「おや、これは洋書なのに日本語なの…?」と思いよく見てみると、著者名はなんと「LAFCADIO HEARN」。そう、あのNHK朝の連ドラ「ばけばけ」(本日最終回!)のモデルとなった小泉八雲こと、ラフカディオ・ハーンの本だったのです。

写真でもご覧いただけるとおり、金箔がほどこされた細密な文様の版画の表紙です。
表紙をめくってみると、

見返しには金箔の散りばめられた贅沢な紙に、鳳凰のような鳥や雲形の絵があしらわれています。
さらに各小編の扉絵や文中の段落の区切り、ページの余白などに、ひとつひとつ丁寧な和風モチーフの絵や模様が描かれていて、それはそれは見事なつくりの本なのです。


小編「EIN KONSERVATIVER(ある保守主義者)」の扉絵


小編「KIMIKO(きみ子)」の扉絵

そこで、この本の奥付の記載をもとに少し調べてみました。
この本は、アメリカ(ボストン)のホートン・ミフリン社から出版された原著「Kokoro: Hints and Echoes of Japanese Inner Life」(1896, Houghton Mifflin & Co.)、邦題『心―日本の内面生活の暗示と影響』のドイツ語版で、フランクフルトのリュッテン・レーニング社(Rütten & Loening)から1905~1910年にかけて出版された「日本本シリーズ(Japanbücher)」の第1作目にあたります。有名な「怪談 (Kwaidan)」もこのシリーズに含まれています。
ハーンはこの「KOKORO」で、単に日本で見聞きしたできごとを記すだけでなく、そこから読み取ることのできる日本人の精神性や死生観などについての深い考察を展開しています。

また、この美しい挿画と装丁は、エミール・オルリック(Emil Orlik)というオーストリア国籍の芸術家の手によるものです。オルリックもハーンと同時期(1900-1901)に日本を訪問し、浮世絵の多色刷り木版画の技法を学んでいます。ハーンの東京滞在期間に直接会ったことがあり、それが縁となって、ハーンの著作を紹介した「日本本シリーズ」の5作品(全6冊)の挿画と装丁を担当しました。

ハーンもオルリックも、日本に学び、そこに暮らして吸収したものを自分の作品として昇華させ、欧米に広く知らしめる役割を果たしたことはいうまでもありません。

さらに、この本(ドイツ語版)には原著にはない序文が添えられています。序文を寄せたのは、フーゴ・フォン・ホーフマンスタール(Hugo von Hofmannsthal)というオーストリアの詩人・作家・劇作家です。当時のドイツ語圏の知識層にとってホーフマンスタールは大変な権威であり、彼の序文があることによって、ハーンの著作が欧州の読者に単なる文学としてだけでなく、日本人の国民性を解き明かす論考として受け入れられることにつながりました。

「ラフカディオ・ハーン、エミール・オルリック、フーゴ・フォン・ホーフマンスタールの3人がひとつにつながっていることがこの本の価値なんだよ」と、この本を閲覧された先生からも教えていただきました。
それほど貴重な121年も前の本が美しいまま、図書館にいまも残されているということ。
あらためて「武藤文庫」のもつ価値を知ったできごとでした。

この『KOKORO』と同一の本をカリフォルニア大学のインターネットアーカイブで全ページ閲覧することができます。ぜひ、エミール・オルリックの美しい挿画を下記URL よりごらんください。
https://archive.org/details/kokorohear00hear/mode/2up


Rig

(参考)
『KOKORO』の書誌情報については、本書奥付より
「日本本シリーズ」書誌については以下より
Lafcadio_Hearn https://de.wikipedia.org/wiki/Lafcadio_Hearn
Berta_Franzos(ハーン著作のドイツ語版訳者)https://de.wikipedia.org/wiki/Berta_Franzos
その他の人物については ja.wikipedia.orgより
『東の国から ; 心』 1362907,中央図書館:閉架書庫1(図書) 934||86
『骨董 : さまざまの蜘蛛の巣のかかった日本の奇事珍談 改版』1633625,中央館2F:岩波文庫 933.6||赤244||3