『部下をもったらいちばん最初に読む本』
橋本拓也著(アチーブメント出版, 2024.9)

この春、若く優秀なA君が部活のトップになった。皆が期待した。しかしA君は、
「えっ、おまえ、まだできないの? 」
「うそ、君、結果出してないわけ?」
等と宣うことが多くなり、夏頃になると次々に退部届が積み重なり、ついに…。
この春、後輩から人気のあるパフォーマンスが素晴らしいB君が、サークルのトップになり、皆が期待した。しかしB君は、
「どうして、俺の言う通りやらないのよ。サークルの為だろう?」
「俺は皆の為にやってるわけよ、わかる?」
等の若干ハラスメント的な言動が多く、後輩が委縮し、夏の大会でも結果が出ず…。
これってどこかで聞いた大学あるある、ですよね。大学だけでなくても一般の会社でもありがちなことだと想像します。今日紹介する本は、皆さんが将来A君、B君にならないためにも、就職した時にも役に立つ、読んで損のない本です。
「いえ、私、出世願望ありませんから」
とおっしゃるあなたも、いつか上司となり、部下はつくはずです。
「いえ、私、会社やめて自由業になるから関係ない」
「私、研究者になるから関係ない」
いえいえ、自由業でも人を雇わなければならない時もありますし、委託業者にお願いすることもあります。研究者でも実験も助手が必要じゃないですか。人は、人の中で生きて行かなければならず、そして、人は必ず年を取ります。組織の中で生きていれば、自ずと部下や後輩ができるのです。ですから、本書はどなたにも必須かもしれませよ。実際、結構売れている本のようです。
名選手、名監督にあらず
野球等のスポーツの世界で言われることですが、これはどの組織にも共通です。
つまり、A君やB君は優秀なプレイヤーでしたが、卓越したマネージャーにはなれなかったわけです。それはなぜでしょう? おそらく持って生まれた性格などが関係している可能性がありますが、彼らはただ単純に学んでいなかったのでしょうね。
社会人であれば、管理職となった時に、講習会や管理者研修などは受けるかもしれませんが、普通の人は、本気で人や組織を動かす方法を学ぶ機会もありません。じゃあ学んだら、優秀なボス、優秀な監督、つまり卓越したマネージャーになれるか? そもそも人は変わらないんじゃないかの?という疑問も残りますよね。
昇進するためのワークショップ
度々自分の留学時代(2004~2006 カナダ・トロント大学)の話題を出して恐縮です。
そこで参加した「昇進するためのワークショップ」への参加経験は、衝撃的でした。
通称「教授になるためのワークショップ」と言われていました。日本人にとっては、自分が出世したいという素振りをみせることは「はしたない」という感覚でしたが、向こうの人は堂々とそれを言って、そのためにしっかりと学ぶ仕組みがちゃんとあったのです。さらに驚いたことに、そのワークショップに新人職員(研修医)や学生が参加していたことでした。日本では出世するのは未だにその人の人柄、人望、人間力と言われますが、それらは非常にわかりにくい指標ですよね。北米ではすでに20年前から、管理職になるため(出世するため)のマネージメントを学ぶ仕組みがあったように思います。学ばせることで卓越したマネージャーを育て、厳しい競争世界で勝ち抜く組織を作るという原理があるようでした。全員がなれるとは僕も思いませんが、学ぶことで人は変化し、優秀な管理者になるのでしょう。
マネージャーになるということは
優秀なあなたは、「新人にやらせるより自分がやった方が早い」、「超忙しい。自分のコピーが5人くらい欲しい」とぼやいていませんか? 部下を持ったら最初に意識して欲しいことは、部下とあなたは異なる人間だということです。部下があなたと同じように仕事をして、あなたと同じようになることは決してありません。本書によると、あなた(マネージャー)のいちばん最初の仕事は、部下(メンバー)からの信頼と尊敬を勝ち取ることです。
「A君の下でホントによかった~。だって、話を聞いてくれるもの!」
「B君から励まされました。私、俄然やる気でてきた!」
と部下に言わせなくてはなりません。
本書によると、マネージャーがやることは、
①傾聴する
②支援する
③励ます
④(部下を)尊敬する
⑤信頼する
⑥受容する(相手を否定しない)
さらに
⑦小さな約束を守る(特に時間)
⑧陰で批判しない(表裏があると信頼されない)
みなさん、どうですか? できていますか? 意外と普通の対人対応に似ていますよね。これならやれそうですよね。たぶん、人と接する時の基本なのでしょうね。
マネージャーがやってはいけないことは、
①批判する
②責める
③罰する
④脅す
⑤文句を言う
⑥ガミガミ言う
⑦褒美で釣る
難しいですが、注意しましょう。
マネージメントとは
本書にあるように、マネージャーはメンバーに常に仕事の「目標」と「目的」を懇切丁寧に示すことが必要のようです。「自分でやった方が早い」とそこにいる部下を無視するよりも、最初は時間がかかりますが、説明してやらせた方が結果的に効率が良くなり、組織が回るようです。何の仕事でも同じですよね。結局はしっかりと新人を教育した方が、組織は発展的、継続的に成長してゆきます。
マネージメントの基本は、水質管理
本書によると、マネージャーの仕事は「人が育つ文化」を醸成させること、とあります。これを、水槽の水質管理に例えています。水槽の中を「愛」「感謝」「貢献」「挑戦」で満たすことが大事。水質=企業文化であるから、我々は職場の水質に注意を払わなければなりません。
パレートの法則とプライオリティ・マネージメント
「全体の2割によって、結果の8割が生み出される」
経済学者パレートが発見したモデルで、「80:20の法則」とも呼ばれます。マネージャーは、仕事において2割の優先事項を解き明かし、それをメンバーに自ら進んでやってもらえる文化を構築することが大切。
メンバーに事前に全体の2割である重要ポイントを教えます。そして、しっかりと残りの8割の成果をチェック、フィードバックし、質を保つ「委任」です。これにより、メンバーの成長を促すのです。「委任」してメンバーを成長させ、マネージャーは組織のためにやるべき別のこと(例えば予算を取る、労働環境を整備する)ことをやらなければなりません。
A君はこの本を読んでこう言いました。
「君、まだできないみたいだけど、ここまでよくやったね。ありがとう。大事なポイントは、○○と△△ね。それをクリアすると目的は達成する。一緒に頑張ろう!」
B君も本を読みました。
「部活のために頑張ろうって、ちょっと言い過ぎかなあ? 僕の言った方法に問題点あるかな? 気づいたら何でも言ってね。僕はほんとに君と次の大会に挑戦したいんだ。ベストを尽くしたいんだ。できる範囲で一緒にやってくれたら嬉しいよ」
ぜひ、将来のリーダーとなるあなた、読んでみてね。ホ~ホホホ、次回をお楽しみに。
(本稿は2025年6月に医療従事者専用サイト「m3」に掲載された記事を再編集して掲載しております)

▼所蔵情報
これまでの書評はこちらから読むことができます。
【黒にゃんこ司書のつぶやき】
こんにゃちは、黒にゃんこ司書です。自分が何とか毎日楽しく仕事をやれているのは、かつての上司や同僚たちが根気強く接してくれたからだよな、と出会いと別れの季節になると特に振り返る機会があります。「自分でやった方が早い」という思考は、締め切りまでに時間がない時以外は、組織がより良い方向に向かうために長期的な視点で考えると危険で、悪くすると仕事を抱え込んでしまって、不健全な事態になりかねないものです。本書は組織の中での自分の行動や考え方を振り返る参考になるはず。ぜひ手に取ってみてくださいね。それじゃ、またにゃ~♪