いよいよシリーズ最終回、かつ「永安学長に聞いてみた!」の最終回!
「プラネタリーヘルスを学ぶ」をテーマに、各領域で学び研究する大学院生の皆さんに集まっていただいた今回の学長×学生対談企画、第3弾、後編です。

(左から)
浜田図書館長(崎長ライト)
森保先生(プラネタリーヘルス学環・グローバル連携機構)
エイドリアン・マハシ さん(多文化社会学研究科 博士後期課程1年)
永安学長
ヘンカー 寛子 さん(プラネタリーヘルス学環 博士後期課程3年)
田仲 菜都子 さん(総合生産科学研究科 博士前期課程1年)
【プラネタリーヘルスは全てに繋がる】
崎長 前回、ヘンカーさんには「開かれた学環で学ぶ重要性」、
田仲さんには「深く研究科で追及しアウトプット」、
エイドリアンさんには「グローバルな視点で研究」について
お話していただきました。
学長、いかがですか?
学長 皆さんのお話は素晴らしかったね。
かなりレベルの高い研究だと思いましたよ。
プラネタリーヘルスという一つのキーワードで、それぞれ別のことを
研究してるけど、皆さんは、全然違うことをやっていらっしゃるわけじゃない。
崎長 それは、どういう意味ですか?
学長 おそらく、それぞれの研究が繋がっている、ということ。
先ほど、ヘンカーさんが「プラネタリーヘルスって、
まだよくわからない部分もある」っておっしゃったけど、
まさに、今やっているそれぞれの事が、我々が地球について考える、
一つの要素になっているわけで。
それをこう、「プラネタリーヘルスに関係あるのかな」って
考える必要はなくて、もう「全て」がプラネタリーヘルスに繋がるんですよね。
そもそも、皆さんがこうやって考えること自体が、
まさに「プラネタリーヘルス」なんだろうと思います。
例えば、長崎でいうと、核兵器が社会的に問題になる中で、
昨年は戦後80年を迎えましたが、
その前年に被団協がノーベル平和賞を受賞しましたよね。
我々も、「継承」と「行動」という形で進めていく中で、
こうやって地道に色々なことを発信していくことが
「平和」にも「プラネタリーヘルス」全体にも繋がる。
だから、こつこつと、それぞれがやっていらっしゃることを
発信していく以外は無いのだろうと、最近本当に思うね。
崎長 「発信」というキーワードが出てきましたが、
やっぱりそこが大事になってきますか。
学長 本当に大事だと思うよ。
また「AI」の話に戻るんだけど・・・。
プラネタリーヘルスのそれぞれの分野に、既にAIが入ってきているけれど、
これからもどんどんAIが入ってくる。
AIは様々なデータから一瞬にして答えを導き出すツールである。
そうすると、「AI」というものは、これから何か行動するときの
一つのキーワードになるんですよね。
全員 なるほど。

学長 何かを即決しなければいけない場合、皆さんAIを使うし、
僕も使うんだけれど・・・。
AIを使うことがいい場合もありますよね。例えば医療の場面などでも、
何かを即決しなければいけない場面での一つのヘルプになると思うんだけれど。
でも、逆に即決してはいけない場面もあって、そこにAIを入れようという
動きもあるわけで、そのような負の側面もありますよね。
そうなると、「誰が責任をとるのか」というと、
責任をとるのは「人間」だからね。
だから、やっぱりAIをうまく使いながら、
じっくり考える「思考」というものも必要なので、
これからは「AIの使い方」というものが非常に大事になると思うんです。
AIを使うことで「いい面」と「本当に全部信じていいか」という部分が
必ず出てくるので。
先程も言った通り、結局責任をとるのが人間だからね。
全員 (うなずく)
学長 だから、皆さんがやっていらっしゃることを、
本当に「地道に」やっていただく、
そして「発信していく」ということが、
これからは本当に重要になると思います。
小さいことかもしれないけれど、どこかで全部繋がっていくからね。
崎長 学長から、いいお言葉をいただきましたね。
皆さん、それぞれ頑張っていきましょう!
全員 はい!(笑顔)
【おすすめの図書の紹介】
崎長 それでは、ここからは皆さんにプラネタリーヘルスや
ご自身の研究に関係するもの、あるいはご自身がお気に入りの
「おすすめの図書」をご紹介していただきたいと思います。
まずは、私から。
学長がおっしゃっていた「全ての研究が繋がっていく」ということにも
関連しますが、こちら、
「21 lessons : 21世紀の人類のための21の思考」です。

崎長 「サピエンス全史」で有名になったユヴァル・ノア・ハラリさんが
書かれた本です。
「サピエンス全史」で人類の歴史を書いて、
世界的なベストセラーになりましたが、
その後に書かれ、コロナ禍の時に日本で出版された本なんですけれど、
非常に面白くて。
例えば大統領であっても大臣であっても、人間は一人では決定できない。
全ての人々の小さな構造が連なって、クモの糸のようになって、
判断を下している。
まあ、いわゆる地球全体が一つの生命のようである・・・
というようなことが書かれていて、
読むと感銘するところがありますね。
図書館にもありますので、ぜひ読んでいただければと思います。
では、次は流れ的に・・・ヘンカーさん!
ヘンカーさん はい。今日は 2冊の本をご紹介しようと思っています。
コロナの時に私はアメリカに居て、アメリカから出られなくなって
しまったので、その時に本を色々読んだのですが、
「これは面白い本だ」というのを伝え聞いて選んだ中で
印象に残ったのがこちらの2冊になります。
まず、1冊目はこちら、先ほどもお話がありました「サピエンス全史」です。

ヘンカーさん 原作は漫画ではなく普通の書籍ですが、
こちらは図書館にある日本語の漫画版です。
私が実際に読んだのは、この日本語の漫画版ではなく、
こちらの・・・英語のグラフィックノベル版
「Sapiens A Graphic History」になります。

ヘンカーさん グラフィックノベル版は3巻あるんですが、
その時、私はこの最初の1巻目を読んでいて・・・。
「人類の誕生」というタイトルがついている巻なのですが、
一番面白かったのは、「認知革命」というところです。
なぜ、人の中でホモサピエンスだけが生き残ることができたのか。
例えば、犬などには色々な種がいるのに、
なぜ人にはホモサピエンスしかいないのか。
それは、この「認知革命」がホモサピエンスに起こったからだ。
「認知革命」とは、例えば国家とか、お金とか、宗教とか、
その実体のないものを、フィクションあるいは
ストーリーというものを共有して、一緒に信じることができる。
だから物理的に言えばただの紙切れである物質に、
1,000円札なら1,000円の価値があるというふうに、
みんなで共有しているからそれを使うことができるわけです。
そういう実体のないものを共通に信じることができるので、
私たちはこれだけ国家というものを作り、企業というものがあり、
繁栄することができている。・・・という内容で、すごく衝撃を受けました。

全員 へえ~!
(話に耳を傾けながら、日本語版の「漫画サピエンス全史」に目を通す)
ヘンカーさん 今、まさにその「共有しているもの」である秩序とか
社会規範とかが揺らいでいて、どんどん変わっていく世界の中で、
「プラネタリーヘルス」ということを関連して考えることが
できるんじゃないかと思っていて。
プラネタリーヘルスって、比較的新しく出てきた概念であって、
これが人々が認知する・信じるというところまでは、
多分まだ残念ながら至っていないときに、
どういう風にこの「プラネタリーヘルス」という考えが広まってくのか、
どうやったらみんながこれを信じて行動に変えていくことができるのか。
っていうのは、すごく面白いところだなと思いました。
ヘンカーさん もう1冊は、こちらの「三体」です。
崎長 ベストセラーですね。
ヘンカーさん はい。
劉慈欣(リュウ ツーシン)という中国の方が書かれたSFなんですが、
これもコロナの時に読んでいて、すごく面白かったんです。
書かれている文明や高度な技術が、もう想像ができない感じで・・・。
次元が3次元とかじゃなくて10次元とかそういう次元の話をされるので、
何を言っているのかよくわからないんですけれど。

ヘンカーさん でも、そういった形で、技術とか文明とか環境とかを
考えるというか・・・。すごく面白かったんです。
未来の、もういつの未来かわからないぐらい遠い未来の話をしているんですが。
SFっていうものは、人の想像力で「技術の進歩」について書かれたもので、
SFに書かれていたことが今、現実化している。
空飛ぶ車であったり、透明人間のようなものであったり・・・。
その技術の進歩にSFがすごく関わっている感じがするので、
そうすると(三体に書かれた)この未来ってあるのかな?・・・
と考えたりします。
崎長 3巻まで読まれたんですね。
ヘンカーさん そうですね。これは1巻で・・・。
でも、最後の最後は本当によく訳がわからなくて(笑)。
全員 へえ~
崎長 皆さん、ぜひ読んでみてください(笑)
では、田仲さんはどうですか?
田仲さん えっと、かなりライトな本なんですけれど・・・。
「プロダイバーのウニ駆除クエスト」です。

崎長 お~。面白そうですね。
田仲さん 私の研究室の先生もちょっとだけ関わっている本なのですが。
著者の中村さんという方が長崎県出身の方で、
舞台の一つが長崎県の周囲の海と大村湾なんです。
いくつかの問題を取り上げていて・・・。
このウニ駆除っていうのは、磯焼けが問題として知られていると思いますが、
その磯焼けの原因種としてウニが知られていて。
そのウニを駆除することが、結果的に磯焼けからの
回復に繋がるんじゃないかな、ということを業者さんから依頼されて行う。
・・・というところから始まるエッセイです。
崎長 へえ~。

田仲さん それ以外にも、逆にウニを養殖する話だったり、
磯焼けの原因である海藻自体を育てる方法だったり
色々されているんですけれど。
この本で「すごいな」って思うところがありまして。
結構、生物に関する駆除って、かなり偏りがちというか・・・。
その一つの種類を「駆除する」場合、
この種類が「恐らく磯焼けの原因種である」となると、
もう、完全に駆除する流れに動いてしまいがちで・・・。
ただ、その分野の研究がもし進んでなかった場合、
減ってもうどうしようもなくなった後に
「その種類が実は磯焼けに関わっていなかった」ことがわかった時に、
どうしようもないという問題があり・・・。
じゃあ、減らさない方がいいかというと、
何もしないことになってしまう・・・という、
繊細なところがかなりある分野だと思うんですけれど。
そういうところにも細かく踏み込まれていて、すごいなって思います。
もともとペンギン水族館で働かれていた、
水産に詳しい方の本なので、水産に関する環境について、
初めに読んでもらうには、すごくいい本なんじゃないかと思っています。
田仲さん もう1冊、全然水産に関係ない本ですと、
上橋菜穂子さんの「鹿の王」が疫病に関するお話ですが、
すごく面白くておすすめです。
崎長 ありがとうございます。
では、エイドリアンさん、お願いします。
エイドリアンさん 1冊目はこちら、
「Making Your Case: The Art of Persuading Judges」です。
この本は法律家(法律実務家)のためのガイドブックで、
アメリカの最高裁判事が書いたものです。
内容は裁判の判決文を書く方法についてなのですが、
なぜそれが重要かというと、アメリカは陪審制度があり、
とにかく自分の主張について、法律に沿って、陪審員たちを説得できる文章を
どれだけ書けるかっていうのがすごく裁判の勝ち負けに関わるので、
みんながわかってくれて、納得してくれて、味方についてくれるような
うまい書き方を学ぶのに非常に良い本です。
また、法学の研究をする人にとっては、自分の主張を、
クリアに、法律の解釈に則って議論を進めるための
文章の書き方に生かせるので、法学を勉強したい人にもお勧めです。

エイドリアンさん 日本は明治以降、判例が重要になりました。
過去の判例が、現在の裁判の判断に使われます。
政策を決める時も、例えば「これは合法だ」など、
過去の判例から議論されるので、
その「これは合法だ」という判断をするためには、
判決文がもともとあるわけで、なので、政策を作るうえでも、
判決をきちんと書きあげるということがすごく重要です。
その一個一個の判決だけじゃなくて、社会にとっても
大事なことになります。
学長 ケニアの法体系は、どちらから?
エイドリアンさん イギリスの法を基礎として採用しています。
エイドリアンさん もう1冊は、
「An Introduction to Japanese Criminal Procedure Law」です。
日本語の書籍「入門刑事手続法」のEnglish Editionです。
日本の刑事訴訟法について研究する上でとても参考になります。

学長 法の歴史について書かれた本ですか?
エイドリアンさん 古い事柄から、新しい内容まで扱っています。
崎長 この本が、図書館にあるっていうことが驚きですね。

学長 (日本語版の本を見ながら)何でもあるんだね~。
崎長 何でもありますよ!ぜひ、図書館に来てください。
全員 (笑)
【これからの未来について】
崎長 プラネタリーヘルスについて幅広く話してきましたが、
最後に、未来に向けてのお話をしたいと思います。
まずは、本日、通訳としてもご対応いただきました
森保先生からお話をうかがっていきたいと思います。
森保先生 私は現在、グローバル連携機構に所属しております。
元々は感染症の研究をやっておりまして、
熱研で寄生虫学で学位を取得しました。
現在の本務としては、大学の国際化の支援ということで、
各部局の皆さんが実現したいと思う国際的な取り組みを支援しています。

崎長 日頃、学生の皆さんと接することも多々あるんですか?
森保先生 学部の先生として接することは無いのですが、
教養の授業を受け持っています。
また、TMGH(熱帯医学・グローバルヘルス研究科)と
プラネタリーヘルス学環で兼務教員もしているので、
学生の指導に入ることはあります。
崎長 自分が学生の頃は、グローバルヘルスなどを
意識したことがなかったのですが、
最近の学生の意識は、どのように感じられますか?
森保先生 私が接するのは限られた学生になりますが、
学部の皆さんと接していても、すごく社会に直接関わるようなことに
高い関心を寄せる学生が多いなと思います。
例えば、海のごみの問題であったり、そういう目に見える
社会課題というものに関心を高く持っていらっしゃる。
一方で、広く考えるためには、やはり基本的な学問というものが
必要になるので、学生の皆さんには、そこをわかったうえで学部の授業を
受けてもらったら、すごく繋がっていくのではないかと思います。
院生の皆さんは、自分たちでそこを考えて大学院に進んでいるので、
素晴らしいなと思っています。
崎長 ありがとうございます。ヘンカーさんはいかがですか。
ヘンカーさん やっぱり、世界中の人たちが、自分が思う
「豊かな生活」や「幸せな生活」が送れればよいなと思います。
それはきっと、みんなそれぞれ違いますし、
一つの正解があるわけではないので、一人一人が納得して
生きられる生活を過ごせるような世界になればいいなと思います。
そのためにどうするか、ということはなかなか難しい問題ですが。

ヘンカーさん 一人一人の行動は確かに小さくて、それをすることで
例えば急に世界の気候が変わる・・・というようなことは
もちろんないのですが、学長がおっしゃったように、それぞれが
個別にやっていても、全てがプラネタリーヘルスに繋がっているので、
一人一人が、自分が豊かに生きるためにやっていること、
それが「一体世界にどういう風に還元しているのか」というところを
考えながら生きていけるといいなと思いますし、そういった考えなどを
刺激するような発信ができればいいのかなと思います。
崎長 ありがとうございます。田仲さん、どうですか。
田仲さん 「地球の未来」という話ですと、水産業自体が
グローバルエコロジーにしっかり関わってくるものだと思うので、
長崎県の水産業の発展からもっと広がっていって、
世界の水産業も維持されて欲しいし、そのうえで、
生物の多様性とか、そういう環境的なところも両立できたらな、
ということはすごく思っています。

田仲さん そのために、水産って普段あんまり触れない分野だと思うので、
色々なところからちょっと手を伸ばして、水産の方にも目を向けてくれる人が
増えたらいいなとすごく思います。
崎長 エイドリアンさんはいかがですか?
エイドリアンさん 研究者としてのキャリアを積みたい、その為に、
まずは博士論文を書き上げることを直近の目標としています。
こういう手続法のような法律は基本的人権と不可分であり、
その基本的人権が侵害されない、一人一人が人権を保障される社会を
目指しているので、その分野で自分の研究が実際に生かされればいいし、
ケニアの刑事手続や警官による権利の侵害のようなものがなくなってほしいし、
自分の研究がそれに貢献してほしいと思っています。

学長・崎長 素晴らしい!
崎長 最後に、学長、お願いします。
学長 本当に皆さん素晴らしいですね。研究もだけど、
その取り組む姿勢が素晴らしいと思うんですよね。
今、本当に国も個人も自分の事しか見られない、考えられないという
世の中になりつつあることを非常に危惧している中で、
このプラネタリーヘルスという一つのテーマで、
皆さんが自分事をさらに一歩進んで何かをやろうと、
そういうことに取り組んでいらっしゃるというのがね、
非常に大事だと思います。

学長 さっきも言ったけれど、やっぱりこれが積み重なっていくということが
平和につながっているんだろうと思うしね。
本当に何度も言うけれど、発信をしていかないといけないですね。
そういったことを、皆さんがそれぞれ担っていただいているということで、
大変勇気づけられましたし、
是非、これからも頑張っていただくことを願っています。
崎長 みなさん、本日は、ありがとうございました。
この記事を読んで頂いた方が、プラネタリーヘルスに興味を持って頂き、
関連の図書館の本を利用して頂ければ幸いです。

追伸:
永安学長のもと、『学生のための大学図書館』をスローガンに、4年間、スタッフの皆さんと共に、図書館の改善を行って参りました。本シリーズも、そのスローガンを実現するために、学生さんと永安学長が本を通して、お話する企画であり、多くの方々の皆さんに読んでいただきました。スタッフともども喜んでおります。また、フクロウ館長と黒にゃんこ司書は、引き続き図書館広報業務を継続しますので、引き続き図書館をご利用して頂ければ幸いです。本当にありがとうございました!
図書館長 崎長ライト(浜田久之)
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(編集注)
本対談は日本語と英語を交えて行われましたが、ブログ掲載にあたり、内容はすべて日本語に翻訳し編集しております。(当日の通訳:森保先生)
2024年3月より始まりました「永安学長に聞いてみた!」は、今回で最終回を迎えました。時にはスイーツ、サッカー、理系女子など、様々なテーマで学長×学生対談を行い、その様子をブログ記事という形で発信してまいりました。対談に参加してくださった皆様、ブログ記事を読んでくださった皆様、本当にありがとうございました。これまでの記事が、皆さんと新しい本との出会いのきっかけになっていれば、大変嬉しく思います。
図書館スタッフ(編集担当)
