
【前回までのあらすじ】
大学病院の内科医である「僕」は、突然図書館長を命じられ、着任初日に掟破りの行動に出る。委託業者との契約を打ち切ると宣言し…。(フィクションです)
僕は、館長に任命された当初叫んでいました。
「『学生のための図書館』というスローガンを掲げた以上、職員がフロントに立つべきです!」
図書館業務には、フロント(本の貸出等の受付業務)とバックヤード(諸々の図書館運営業務)に分かれています。
「フロントを業者に丸投げしているのは、我々の最も大事にすべき学生と接する機会を自ら放棄していることと同じです!」
と僕の正論を繰り返していました。しかし、僕の声は図書館の森に響き、こだまのように自分の声が返ってくるだけで、職員からの反応はまったくありません。
「館長、まあ焦らず。少し様子をみてからでも」
と優しい眼鏡の部長さんは、僕にお茶を出してくれました。子を諭す親のように、
「司書さんは、職人みたいなものですから。いろいろ考えとか、やり方があるんですよ」
と。職場で初めてお茶を出されたので(病院ではそんなことはまずありえない)、僕はちょっと感動して、お茶をすすりながら涙目で訴えます。
「でもね、部長さん。僕の大学病院では、どんなに偉い教授でも、病院長でも、毎週1回は外来をして患者さんを診てるよ。いわゆるフロント業務をしているんだよ。業者さんは、いい仕事をしていると思いますよ。でもね、大学図書館の職員が学生の顔を見ないで、学生の声を聞かないで仕事ができるの? おかしいでしょう?」
「まあ、おっしゃることはわかりますけど、司書さんには司書さんのね~」
どうやら図書館は、とても特殊な構図になっているようです。本学は10以上の学部や様々なセンターがあります。図書館は医学部や病院と同様に独立したひとつの組織で、本館と2つの分館を持ち、総勢30名以上の運営スタッフが働いています。スタッフは、総務系職員と「図書館の番人」ともいえる司書の2種類の職種。さらに、部長さんは司書ではなく、図書館と情報・学術連携部という組織の部長も兼ねているようで、大変忙しそうです。
「私たち事務系職員は、通常3年おきに異動があるんですが、司書さんは原則ずっと図書館なんですね。だから…」
上から頭ごなしの館長命令といえど、森の番人達は容易に動くわけではない…と。
「なるほど、だけどやっぱり業務委託は」
「まあまあ、館長、そうあわてず」
「いや、そうやってはぐらかそうとしても無駄ですよ。僕は、これまでの館長のように、名誉職として判子を押すためにここに来たんじゃないから!」
また僕が熱く語り出すと、部長さんは明るい声で、
「そうだ~、今日は新刊本の入荷日だった。アンちゃ~ん、新しい本を館長さんに」
と甲高い声をあげました。すると、「は~い」と、さらに高い声が返ってきた後、ガラガラとカートの上に本の山を積んで、小刻みにトコトコと押してくる小柄な女性。少し赤みがかった長い髪を後ろで束ね、白い作業用のエプロンをして、「失礼します」と僕の前でペコリと頭を下げます。
「今週の新しい入荷の本です」
とアンちゃんが自慢げに言います。
「4月ですから、新入生のための本が多いですね」
そしてひとつずつ取り上げて、「これはTOEICの勉強本で、新入生が良く借ります。これは3年生の就活本、これは留学生向けの英語の本……」と、1分間ほどスラスラと10冊ほどの本の内容を話し、スーッと出て行きました。見事なプレゼンでした。
「すごい! えっ、今の誰?」
「アンちゃんです」
「アンちゃんって、何者?」
「本名は柴田杏。司書歴30余年、10名の司書を束ねています。職位としては係長です」「なるほどね、杏ちゃんか…」
僕は冷めたお茶をすすりながら、これから対峙することになるだろう赤毛の杏ちゃんについて、思いを巡らしていました…。
(この物語はフィクションです。つづく)
【フクロウ館長おすすめ本】

時間は逆戻りするのか : 宇宙から量子まで、可能性のすべて | 長崎大学附属図書館 OPAC
もし時間が逆戻りしたら、いつの時代に行きたい? やっぱ幕末の長崎で、坂本竜馬に会いたいよね~、と思って読み始めた本だが、文系頭の僕には難解だった。素人にもわかりやすく書いている本だが、物理がわからない僕には厳しかった。でも、相対性理論や宇宙の始まりって、なんかロマンがあるんだよね~。結局、時間は逆戻りするのかしないのか…よくわからなかった(笑)けど、楽しい本でしたよ~。ホッホホ~、次回をお楽しみに!
【黒にゃんこ司書のつぶやき】
こんにゃちは、黒にゃんこ司書です。新キャラ登場回です。元気で胆力があるアンさんは、豊富な知識とコミュ力で細やかなフォローをしてくれる頼もしい先輩です。そんなアンさんと館長のバトルが勃発!? 次回「フクロウ館長 VS アン ~誰がために働く~(仮題)」をどうぞお楽しみに。それじゃ、またにゃ~♪