ぶらりらいぶらり:長崎大学図書館ブログ

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【連載第51回】フクロウ館長イチ推しの本

『いつも幸せな人は、2時間の使い方の天才』
今井孝著 (すばる舎, 2024.6)

グラスの中の、ソーダの泡がゆっくりと上がってくる。

丸い氷にまとわり、弾けると気持ちいい小さな破裂音が静かな店に響いた。バーのカウンターの向こうには、髪を後ろで結んだ髭のマスターがグラスを磨いている。僕はハイボールを飲みながら、本を読んでいた。マスターが棚一列のグラスを拭き終えたので、僕は「正月休みは何したの?」と聞いた。いつも元日だけ休んで店を開けているが、今年は一週間ほど店を閉めた。

 

「山籠もり」

「山? 何、どこの山?」

「秘密です」

 

とにやりと笑った。

「修行ですね」と、蝶ネクタイのマスターはゆっくりグラスを置いて、僕を見た。

 

ハッ! 

 

突然両手を構えて、僕の目の前に手刀を飛ばし、足を高く上げて空中に蹴りを入れた。かなり鍛えているのは、素人でもわかる。

「すごい!」と僕は拍手した。聞くと、毎週日曜の午前中に2時間道場に通い、自主トレをして年末年始の泊まり込みの合宿に臨んだそうである。行ってよかった、楽しかったと、超マニアックな●●流の武道(?)について、嬉々として話すマスターは、本当に幸せそうにみえる。

 

髭のマスターとはもう20年くらいの付き合いなのだが、マスターの趣味は、数年置きに変わる。僕が知っているだけでも、ゴルフ、ピアノ、サックス、棒術・・・などあるが、結構突き詰めてやる人だから、僕からみると各分野でかなりの腕で、スポーツクラブのゴルフインストラクターとか、ミニコンサートをしたりする域まで達する。

 

「まあ、時間は自分で調整できますからね。毎日2時間は練習しますね」

 

その楽しみの2時間のために、毎日を過ごしていると言う。自営業でいろいろ苦労はあると思うが、好きな古いレコードに囲まれ、酒は飲まないが世界中のウイスキーを集め、独身で、好きな2時間を過ごす・・・宮仕えの僕からしたらうらやましい限りだ。

 

僕は本書を片手に、本書に書いてあることを聞いてみた。

 

「マスター、100億円もらえたら、何する?」

「う~ん。100億ね~」と、グラスをキュキュッと拭きながら真剣に考えている。

「たぶん、そう変わらないと思いますよ。今、そこそこ楽しくやってますからね」

と髭を撫でた。

 

本書『いつも幸せな人は、2時間の使い方の天才』は、簡単にさらりと読める、いわゆる自己啓発本である。簡単に言えば、考え方を変えるだけでハッピーになれるというメッセージだ。例えば、現代人が陥るつまずきとしては、

 

安心を求めすぎる ⇒だから、人生をつまらなくしている。

お金がないと何もできないと思っている ⇒でも、100億円得ても、自分の好きな海苔の佃煮を食べると幸せを感じるだろう ⇒つまり、自分が本当に好きなことは周りにあり、そんなにお金はかからない。

 

わかりやすいメッセージが本書には満載だ。例えば、みなさんだって、週末の推しのコンサート(2時間)を楽しみに1週間をウキウキして過ごす。仕事終わりのお風呂+ビール(2時間)を楽しみに頑張る。彼女との次のデート(2時間じゃ終わらない?)を楽しみに毎日を過ごす。そんな些細だけど大事な体験をしたことがあるでしょう? その積み重ねを大事にする先に幸せがあると、本書は説く。

 

マスターは言う。

「朝、柔軟して、トレーニングすると達成感があるんですよね」

「なるほど。本書によると幸せの種類は、3つあり、ひとつは<達成感>らしいよ」

「納得ですね。トレーニングメニューをやり遂げると気持ちいいし・・・。あと2つは?」

「人との<ふれあい>と<リラックス>」

 

僕はそう言って、本書を閉じた。このバーはまさに「ふれあい」の場であり、「リラックス」できる空間である。もしかすると、マスターは「2時間の使い方の天才」なのかもしれないぞ。

 

「マスター、本書によると、マスターは天才にあてはまるよ」

 

マスターはグラスをキュキュッと鳴らしながら、本を覗き込んだ。

 

「天才? まっ、うすうすは、自分で気づいてましてけどね」

 

と笑い、僕も大笑いして共に喜んだ。小さなことに喜ぶ才能がある人が天才になれると、書いてあった。そうであれば、僕らは天才なのかもしれない。

 

大谷選手が50-50を達成した時は、このバーで乾杯した。マスターがゴルフでいいスコアを出した時は、クラッカーの上に美味しいチーズをのせてお祝いをした。マスターのミニコンサートが成功した時は僕が花を贈り、僕が震災の応援から無事帰って来た時はマスターからご馳走になり、僕の小説にマスターを登場させた時は一番高いお酒を注文した・・・。

 

「いろんなことやって、共に喜んだなあ~、俺たち、幸せもんだよな、マスター」

「まっ、うすうすは気づいてましたけどね」また共に笑う。

「おっと、もうこんな時間、そろそろ帰るよ」

「ちょうど2時間。先生も2時間の使い方の天才ですね」

「まっ、うすうす気づいてたけどね」

 

さて、次はどこの店で2時間を使おうか・・・僕はそう思いながらドアを閉めて外へ出た。新年会だろうか、幸せそうな一団が通りすぎて行った。これから、長崎の思案橋の夜は更けて行く。ホ~ッホッホッ、次回をお楽しみに。

 

▼所蔵情報

opac.lb.nagasaki-u.ac.jp

 

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booklog.jp

 

【黒にゃんこ司書のつぶやき】

こんにゃちは、黒にゃんこ司書です。本書の「ご褒美」をモチベーションにしてがんばる、という考え方、私もよくやります。今は九州国立博物館で始まったばかりの特別展「はにわ」に行くのが楽しみで、そのために面倒な仕事もやってやる!という気になります。みなさんも少し先に「ご褒美」予定を入れて、今年度最後の定期試験を乗り切ってください。それじゃ、またにゃ~♪