『スイスの素朴なのに優雅な暮らし365日』
工藤香著 (自由国民社, 2024.3)
スイス、チューリッヒ中央駅のカフェに、僕は入った。
13時間飛行機に乗った後、くたくたとなり、とりあえずコーヒーを飲みたかった。駅構内にあるカフェは、日本と変わらない。少し安心した。列に並んで、コーヒーを頼めばいいだけだ。大きなスーツケースを引きながら順番を待つ。夕方の帰宅時間のためか、店内は混んでいた。僕の二つ前の金髪のお姉さんは、たぶんフランス語で何かを注文し、店内の椅子に座った。なぜだか優雅にみえた。僕の前の恰幅の良い紳士は、低い声で何か注文している。英語ではないし、フランス語でもない。ドイツ語? そもそも、スイスって何語なんだ? そんなことを考えながら僕の順番になった。
「********?」
と眼鏡の背の高いお兄さんが聞いてきた。僕はさっぱり理解できなかった。とりあえず、指でメニューをさした。通じた。またホッとする。支払いはカードで大丈夫のようだ。
「********?」
ニコリッとお兄さんがまた聞いてきた。焦る。さっぱりわからなかったが、お兄さんが
「CHF / EUR / $」等のマークを指さしたので、どの国の通貨で払うか?と聞いているようだ。僕は「Yen(円)」を探したが、なかったので、CHFを指さした。向こうが「ダンケ」と満面の笑みで言ったので、僕も「ダンケ」と言って席に着いたが、どっと疲れた。コーヒーひとつ注文するにも大変だ…、しかし、そもそもスイスってどんな国なんだ?
■スイスって…
僕は2024年の日本の暑い暑い夏を離れ、1週間ほどスイスの学会へ行く機会を得た。いつものことだが、直前まで学会発表の準備に追われ、スイスのことをほとんど調べずに飛行機に飛び乗ったのだった。直前にネットで『スイスの素朴なのに優雅な暮らし365日』と『地球の歩き方 スイス編』を買っていたので、まずはコーヒを飲みながら『スイスの~365日』から開いてみる。
スイスは、九州と同じ面積で、公用語が4つ(ドイツ語、フランス語、イタリア語、ロマンシュ語(p. 9)
なるほど。スイス語というのはないらしい。しかし、ロマンシュ語って何?
スイスの通貨は、フラン。CHFの表記。キャッシュレスも進んでいるが、現金主義の人も多く、高額なお札も需要がある(p. 39)
滞在中、ほぼ現金は使わなかった。しかし、1スイスフラン約170円だ。僕はテーブルの上にのった4フラン(約680円)のコーヒーをちびりちびりと舐めながら、ページをめくっていた。
物価が高いことで有名なスイス。最低賃金は州ごとに決められている。(p. 104)
僕は、チューリッヒ州の最低賃金をググってみた。23.9CHF(約4,015円)! えっ、さっきのカフェの眼鏡のお兄さん、それくらいもらっているんだあ~。だから、笑顔が素敵だったのかあ~と、納得(笑)。
■トラムが…
さて、一服したので、ホテルへ向おう。駅から電車(トラム)で5分、歩いても10分程度のようだから、ゴロゴロと荷物を引いて歩く。おっと、危ない。電車は止まってくれない。
トラムに注意。公共交通の運行・進行を妨げてはならい。とう法律があるために、車でも人でも、事故になった場合、多大な罰金が科せられる(p. 292)
やっべ~~。トラムは強いんだ、長崎の電車と同じか(笑)。
緯度が高いためか、もうすぐ20時だが明るい。機内食を着陸前に食べたのでお腹はすいてない。リマト川で立ち止まり、写真を撮る。ヨーロッパって感じだなあ~と、なんとなく納得して、途中COOPでビールを買ってホテルへ。川沿いの小さな古いホテル、家族経営のようで、小窓の付いたフロントで鍵をもらって部屋へ。スイスといえども、歩くと汗ばむ。さて、エアコンでもいれてシャワーを浴びて、旅の疲れを癒すためにビールでも飲もう。
■エアコンが…
「エアコンのスイッチは、どこだ・・・」
ない。これか?と思って窓の近くの細長い器機をみると、どうやら暖房のヒーターのようだ。天井をみて、エアコンを探すが、ない。ベッドの横に小さな扇風機がひとつ。スイッチを入れると、ガタガタと音をたてて首を振る。おいおい、これだけ? これで夏の夜寝るの?
エアコンがない! 暑さのピークの頃は、30度を超える日が続くこともあります。一部の5つ星ホテルやスーパーにはエアコンが設置されますが、一般家庭にはエアコンがないのが普通なので、扇風機などで暑さをしのぎます。エアコンが普及していなのは、環境保護に対する人々の意識の高さによるものです。また、設置のための工事費がとても高いのも、普及が進まない理由のひとつです(p. 130)
そういう訳で、僕が泊まったスイスのホテルは、どこもエアコンがなかった。確かに暑かったが湿気がなく、夜は気温が下がり、寝れないということはなかったのだが…。
とりあえず、僕はシャワーを浴び、窓を全開にして、ビールのプルリングを引いた。小さな石作りの部屋にアルミ缶の開く音がやけに大きく響いた。スイスって、どんな国なんだ…。永世中立国、アルプスの少女ハイジ、直接民主主義制度…、それくらいしか思いつかない。明日は、学会場のあるバーゼルへ。その前に、すこしチューリッヒを歩いてみるか…。
僕は扇風機のカタカタと回る音を聞きながら、いつのまにか眠っていた。
(つづく)
▼所蔵情報
これまでの書評はこちらから読むことができます。
【黒にゃんこ司書のつぶやき】
こんにゃちは、最低賃金4千円!?・・・日本では千円台に届くかなんて言ってるのに・・・と衝撃を隠せない黒にゃんこ司書です。さて、今夏スイスで開催された学会に参加した我らがフクロウ館長の珍道中(?)を前後編でお届けします。コーヒー一杯買うのにアタフタしますよね!わかる! 旅先の駅の雰囲気って歴史を感じたり、その街の玄関という趣きがあるものが多いですが、スイスも素敵ですね~。円安で海外に行くのも大変なご時世ですが、後編も面白エピソードが続きますので、乞うご期待! それじゃ、またにゃ~♪