先週(2月24日)のブログでもご紹介したように、
経済学部分館にはたくさんの貴重な古い資料があります。
古いものは古いままに、その状態を保存していくことも大切なのですが、
資料によっては、原本を損なわない範囲で補修を行うこともあります。
今回は和装本(日本の伝統的な製本法で装丁された本)の綴じ糸の補修を行いました。
この本のような製本法は、綴じ穴が4つあることから「四つ目綴じ」と呼ばれます。
また、本の上側を「天」、下側を「地」、いわゆる背表紙の側を「背」といいます。
糸が劣化して、天や背を綴じている部分が切れて失われているので、
これを補修していきます。
まずは、元の糸の残っている部分を外します。(緊張の一瞬。どきどき…)
裏表紙側の「地から2番目の穴」へ糸を出し、綴じ始めます。
背を一周回して綴じ、天のほうへ向けて8の字を描くように糸を通していきます。
天や地の位置の穴では、背側と天・地側に2度糸を回してしっかりと綴じます。
締めすぎず、緩すぎない力加減に注意しながら、順に綴じていきます。
一筆書きの要領ですべて綴じ終わると、はじめの「地から2番目の穴」に
戻ってきます。3方向にある綴じ糸の下に糸をくぐらせ、
輪になった部分にもう一度糸を通して引き締めると結び目ができます。
最後にもう一度同じ穴に糸を通し、反対側(表側)へ引き抜き、
結び目を綴じ穴の中へ引き込むと、結び目が目立たなくなります。
(実はここが一番難しいです。仕上げが肝心!)
表紙側で糸を切って完成です。
今回補修したこちらの本、
標題には「原富」、その下に「英倫 斯蜜亜丹 原本」と書かれています。
実はこの本、経済学の父と呼ばれたアダム・スミスの『国富論』の中国語版なのです。
「斯蜜亜丹」とは「スミス アダム」を音訳した表記でしょうか。
18世紀にイギリスで始まった新しい学問を学ぼうと
辞書もない時代にひとつひとつ訳語を編み出して自国の言葉に直し、
本としてまとめた人たち、
また、その本を買い求め、後世に遺してくださった方。
この本がここにあるのは、これまでにこの本に携わってきた多くの人の情熱の
おかげなのですね。
この本とその人たちの想いが、このあとも永く受け継がれていくようにと願いながら、
大切に作業いたしました。
なお、四つ目綴じの方法については、こちらの資料を参考にしております。
出典:国立国会図書館 2019年度日本古典籍講習会実習テキスト
https://www.ndl.go.jp/jp/preservation/pdf/training_text_3_yotsume-toji2019.pdf
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