ぶらりらいぶらり:長崎大学図書館ブログ

長崎大学附属図書館からお届けするブログです。 ぶらり、ぶらりと図書館へどうぞ。

【連載第27回】フクロウ館長イチ推しの本

世界の中心で、愛をさけぶ片山恭一著 (小学館, 2001.4)

 

14歳の僕にとって、防波堤の突端にある小さな灯台が世界の中心だった。

右手には静かな波を受ける大きなクレーンが並ぶ、左手にはフェリーの波止場。後ろには、遠洋漁業の船がずらりと並んでいた。学生服の僕は防波堤に座り、足をぶらぶらさせながら、外海へ向かう船を見ていた。

 

その灯台は、地図的には観光地の長崎市の真ん中に位置し、長崎港へ入ってくる船のランドマークになっている。そこから世界遺産であるグラバー邸やジャイアント・カンチレバー・クレーンや稲佐山が見渡せる。すり鉢状の長崎の街の底にある絶景ポイントなのだが、ほとんどの人は知らない。理由は、その地区は遠洋漁業の基地であり、工場の近くだからであろう。立ち入り禁止地区ではないが、一般の人は入りにくい雰囲気がある。でも、その街に育った僕らにとっては、そこは遊び場であり、何かと「じゃあ、あとで灯台に」と、そこに集まった。

 

部活の帰りとか、休日に何もすることがない時とか、集まってなにをするでもなくだべっていた。14歳の僕達には、語り切れないものをそれぞれが抱えていたからだ。また、独りでもよく行った。悩み多き年頃だったから、海を見て、単行本読んだり、鼻歌を歌いうたた寝をしたり…。他人のことなど考える術を知らず、世界の中心の自分のことさえうまくコントロールできない少年を、白い灯台が黙ってみつめていた。

 

夕方になると灯台に灯がつき、オレンジ色の海と交じり合う。その時間になると、酔ったおじさん達のちょっとした諍いや、やってはいけないことをする少年少女のたまり場になることもあったので、時々警官が見回りに来ていた。

 

「君たちはそこで何をしているのか、早く帰りなさい!」

 

振り返ると懐中電灯の光が、僕と彼女の目を刺した。初めてのデートは学校から防波堤の灯台まで行くのが定番であったのだが、その光でデートのシナリオは崩壊し、動転した二人は手をつないで逃げて走った。僕の青春物語の大事な一コマは、世界の中心で起こっていた。

 

世界の中心で、愛をさけぶ』、つまり『セカチュー』を知らない人は当時誰もいない…というほどに売れた小説である。村上春樹の『ノルウェイの森(上巻)』を抜いたことでも話題となった。2001年に発売され、300万部のベストセラーとなったが、発売当初はほとんど売れなかったようだ。柴咲コウの雑誌の書評で火が付き、ドラマ化、映画化、舞台化され、今も読み継がれる青春恋愛小説。読んだ人も多いと思うので、人それぞれの思い出があるので、あえて内容にコメントしないが、原作は柴咲コウが主演する映画とは若干異なる。どちらが良いとか悪いとかはないのだが、原作はなんとなく僕自身が思春期を育った灯台のある港町を連想させてくれる。ベストセラーになったということは、読者の誰もが、自分の街で、自分の青春時代に、自分の初恋と重ね合わせることができる作品ということだろう。

 

2023年、今年、僕が最初に紹介する本であるのだが、今の大学生のみなさんが生まれた頃から幼稚園くらいの時に話題になった作品だから、読んだことがない人が多いと思い紹介した。コロナ禍でどうだかわからないのだが、青春の甘くて苦い濃厚な初恋が、今も昔と同様にあり、「世界の中心」であるそれぞれの場所で起こっていると信じている。人が人を好きにならないと何も起こらない。小説も、映画も、舞台も生まれないし、人生も淡白なものとなるであろう。勉強も就職も大事だが、素敵な出会いのある2023年となって欲しいと思う。

 

最後に、まったく関係ないのだが、柴咲コウと映画やバンドで共演した福山雅治が、あの灯台を曲にしている。アルバム「残響」に収録されている『18~eighteen~』の歌詞にも出てくる灯台が、僕の灯台だ(笑)。福山さんは隣町に住んでいたので、よく行っていたのかもしれない。いつかお会いしたら、聞いてみようと思う。ホッホホ~、まあ、そんな機会も訪れることもないだろうが、オ~ホッホッ! 今年もよろしく~ホッホホ!

 

「今年の抱負はなぁに?」より図書館職員の書いた絵馬

▼所蔵情報

opac.lb.nagasaki-u.ac.jp

 

【黒にゃんこ司書のつぶやき】

こんにゃちは。黒にゃんこ司書です。今回は懐かしい青春小説のご紹介でした。フクロウ館長思い出の灯台が、最後の福山雅治さんエピソードでより豪華になりました(気のせい?)。新年一回目にふさわしく、景気いい感じ!今年も引き続き当ブログにお付き合いいただければ幸いです。それじゃまたにゃ~♪