ぶらりらいぶらり:長崎大学図書館ブログ

長崎大学附属図書館からお届けするブログです。 ぶらり、ぶらりと図書館へどうぞ。

旅立ちの季節にオススメの本(中央図書館)

f:id:nulib:20220307121818j:plain

『ジャッカ・ドフニ 海の記憶の物語』 津島佑子著 集英社 2016

https://opac.lb.nagasaki-u.ac.jp/opc/recordID/catalog.bib/BB21200042?caller=xc-search

 

 大学にとっては旅立ちの3月に入りましたね。この春長崎を旅立つ方もいらっしゃることでしょう。新しい場所、新しい人間関係、淡淡(あわあわ)とした情報しかない場所に一人飛び込むのは、心落ち着かない気分になることもあるかもしれません。

 

 

今回ご紹介する小説は、キリスト教徒への弾圧が進む17世紀に、長崎から世界の海へ旅立った少女の物語です。

 

 主人公のチカ(アイヌ名チカップ)はアイヌ人の母と日本人の父との間に生まれますが、父と母は別離し、母は乳児の彼女を置いて死去します。その後、厳しい弾圧の続く日本に潜伏しながら布教活動を行うイエズス会の宣教師に拾われた彼女は、母の歌っていたアイヌの歌を生きる芯としながらも、宣教師たちと旅をしながらキリスト教徒として育てられます。

そして苛烈を極める弾圧のなかで信者の光として、司祭となるように育てられた少年とともに、ここ長崎から南の海へと旅立ちます。

 

 キリスト教、日本、東南アジアの国々、様々な言語、人間関係。彼女を取り巻くものは目まぐるしく変化を続けますが、愛しい者を思いながら一貫してアイヌ女性として生き抜き、多様な異文化が行き来をする海を旅しつづけます。

 

 作者の津島佑子は作家太宰治の次女として生を受けますが、1歳で父と死別し、成人して授かった息子も幼くして亡くしてしまいます。本作は遺作となりますが、作者が喪失の人生のなかで最後に書かなくてはならない物語だったように思います。

 

 読んでいて心弾むような本ではありませんが、新しい学年、新しい世界へと旅立つ豊かな時間を過ごしている方には、より豊かな思いを得られるのではないかと思い、本作を紹介いたします。 

  Y・T