ぶらりらいぶらり:長崎大学図書館ブログ

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【連載第7回】フクロウ館長イチ推しの本

『闇を泳ぐ : 全盲スイマー、自分を超えて世界に挑む。 

木村敬一著 (ミライカナイ, 2021.8)

 

金髪のバティー教授は、「彼は「チャレンジ・パーソン」よ」と、僕に紹介した。僕は、意味が分からず「彼は、何にチャレンジしているのか?」と、聞くと、一瞬、沈黙が訪れた。教授室の窓から赤く色づいたメープルリーフが揺れていた。「彼は何事にもチャンレジしている」と、彼女は微笑んだ。

 

2004年の出来ごとだ。僕はカナダのトロントに留学していて、一緒に医学教育のワークショップをやってくれる仲間を探していた。教授秘書が、彼を連れてきた。彼は、電動車いすに乗り、僕に握手を求めてきた。僕は、慌てて左手を差し出した。この時、身体に障がいがある人を「challenged person」と言う呼び方もあることを初めて知った。紹介された彼は、右半身麻痺があるようだったが、すべてにおいて積極的な挑戦的な人であった。

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挑戦する人、それが木村敬一だ。全盲スイマー、東京パラオリンピック金メダリスト。幼少期に7度の手術をしたが全盲になるが、まったく性格は変わらず元気で明るい子。6才から寮生活、負けず嫌いで、イアン・ソープにあこがれて水泳にのめり込む。

 

12才で単身、上京し、水泳部に入るが、やんちゃな学校生活が始まる。失礼だが、本当に笑えるエピソード満載だ。視覚障害児の寮生達が、夜中に寮を抜け出す! 危ない、危ない、腹をかかえて笑った。高校の夏休みには、白杖をつく木村と同じく視覚障害の親友ふたりで、ローカル線を乗り継ぎ福島に旅行に行く…、さてさて、どんな展開になるか…と、本を読んでゆく。大学時代の初恋のようなエピソードも…。やばい、面白すぎて、ネタばらしになるから、これ以上書かない(笑)。

 

人には武器が必要だと思い、自分の武器を増やしていくことが生きていくことだと思う彼。水泳は、そんな「武器」の一つと、木村は言う。でも、僕は、思う。木村敬一の最大の武器は、水泳ではなく「Challengeし続ける姿勢」だと思う。アスリートとして、早期に注目されたが、過大な期待と重圧に苦悩し、ボロボロとなる。金メダル候補となるが、北京、ロンドン、リオでは逃し、単身アメリカへ。ライバル、友人、サポーター、そして、新型コロナウイルス…。

 

この本は、2021年の8月に発売されたので、彼が再起して金メダルを取ったという話は出てこない。つまり、成功物語、自慢話のストーリーではない。『闇を泳ぐ』意味は読み進むと納得できる。皆が寝静まった深夜、僕は読み終えた。最後の数ページ、泣きながら読んだ。窓の外には、漆黒の闇に、長崎の夜景が輝いていた。

 

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ホーホーホー♪ 次回をお楽しみに♪

フクロウ館長より

 

▼所蔵情報

http://opac.lb.nagasaki-u.ac.jp/opc/recordID/catalog.bib/BC09938307

 

f:id:nulib:20210826132338p:plain【黒にゃんこ司書のつぶやき】

こんにゃちは!黒にゃんこ司書です。今回は先生の若き日の留学時代のお話が出てきました。素直すぎる問いを発して、シーンとなった研究室の様子が目に浮かびますね。著者の子ども時代のエピソード、読みたい!めっちゃ気になります。「自分の武器を増やしていくことが生きていくこと」とは、後ろ向きでは出せない強さをもった人による言葉だと感じました。「ラクするために一生懸命」が座右の銘の私は見習わなければ・・・それじゃあ、またにゃ~♪