ぶらりらいぶらり:長崎大学図書館ブログ

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【連載第5回】フクロウ館長イチ推しの本

『街場の文体論』

内田樹著 ミシマ社 2012.7)

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学生は、思う。どういうふうに書いたら、この先生は点をくれるか。「たぶん、これが、合格最低点をクリアしたレポートです、どうか単位をください」と、願いながら書く。読み手に対する敬意のない文章だが、先生側も「まあ、しょうがない」と、合格させる。

 

薄っぺらな文章が毎日たくさん産まれる。それが学校であり仕事場である。しょうがない。しかし、文章は、その人そのものである、と僕は思う。

 

学校や会社では、自分の本当に言いたいことを文章にすることはない。試験に通るためとか、予算をもらうためとか、通達をするためとか、言い訳をするために文章を書く。ほぼほぼ自分の身を守るための行為で、読み手へのリスペクトはない。でも、それは、しょうがない、僕らは文章のプロではない。文章を書いてもお金はもらえない。僕も仕事として学生のレポートや入社試験の答案を採点する。落としたことはないが、ひどい文章を読むと気分が悪くなる。いい文章は、幸せな気持ちにさせてくれる。

 

さて、いい文章とは何なのだろう?

曲りなりにも、小説を書いたりする僕は、長年その回答を探し続けている。

 

内田樹は、その答えを本書で示唆してくれている。

その答えを、このコラムで僕は、安易に言わないし、言えない。

内田樹の本は、YouTubeのように安易に切り取って、解説できるようなものでもない。

 

気になるなら、内田樹(うちだたつる)を、一度ネットで調べた方がいい。私ごときが評価できる御仁ではないが、凡人の気持ちがわかる頭脳明晰な頭のいい人であり、哲学者であり、武道家であり、教育者であり…、まあ、ひとことで言うと優れた文化人。憧れの人でもある。

 

非常に難しい哲学理論をわかりやすく解説してくれた『寝ながら学べる構造主義』は、哲学書にもかかわらず10万部以上売れた。何で?と、思う日々の出来事を解説してくれる『街場の~』シリーズは、非常に人気がある。

 

彼の専門は、フランス現代思想で、村上春樹の研究者でも知られている。本書は、内田樹が、神戸女学院大学の教授として、最後の教壇に立った〈クリエイティブ・ライティング〉をテーマにした本だ。僕は、今回、この書評を読むために再読したが、おそらく、今後数回読むと思う。

 

だが、ノウハウ本ではない。これを読めば文章がうまくなる…という類の本ではない。もし、文章を書いて生きてゆこうと思うならば、読んだ方がいい。難解な個所もあるが、飛ばし読みすればいい。

 

君が、みんなにわかって欲しいと心から切望している事があり、それを文章にしたいという欲求があるなら、この本を読んだ方がいい。「届く言葉」とは、どのような言葉かを考えることができる。

 

再度いっておくが、ノウハウ本ではない。内田樹の大学教授としての最後の14回の講義をまとめた本だ。僕は、その講義を聞きたかった、知っていれば神戸まで毎週通ったと思う。そう思わせてくれた本だ。

 

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ホーホーホー♪次回をお楽しみに♪

フクロウ館長より

 

▼所蔵情報

 

f:id:nulib:20210826132338p:plain【黒にゃんこ司書のつぶやき】

こんにゃちは!黒にゃんこ司書です。今回の本は『街場の文体論』、なんとフクロウ館長の「憧れの人」による著書です。10年ほど前ですが、長崎大学にもリレー講座で来学された内田樹さん。難しいことも簡単に説明されて、かつおもしろいので、学生時代私も内田さんの本にはお世話になりました。公私どちらにせよ、私は「この文章を読む人がいる」という意識をもって書かれたものが「いい文章」かなと思います。みなさんもぜひ本書を読んで、自分なりの「届く言葉」を探してみてください。じゃあ、またにゃ~♪